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2013.12.12 (Thu)

浅草花柳界Vol.2 浅草見番がやさしく見守っている!現代浅草芸者さんのやる気と就職

浅草花柳界Vol.1では芸者さんたちの芸能プロダクションのような役割を果たす場所-浅草見番からみた浅草花柳界入門編をお届けしました。今回はもうちょっと気になるところに踏み込んでみたいと思います。 現在この浅草花柳界での”芸者さんの就職事情”はどのようになっているのでしょうか? 実はここでも浅草見番が大きな役割を担っています。また前回に引き続き、浅草見番事務長 千葉慶二さんに話をお聞きして、皆さんがきっと知らないようなことを、持ち帰ってきました。

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芸者さんには求人広告はありません。ではどうやって就職?

浅草見番に伺ったときに見かけた芸者さんたちはどの年代の方でも凛としていてプロに徹している印象。この方たちがどのようにしてこのお仕事を始めたのか-”芸者さんの就職事情”を知りたいと思いました。

芸者さんには求人広告はありません。
100%やる気のある人の自らの意思と行動ではじめてできるお仕事です。
そのやる気のある人が面接に訪れるところが浅草花柳界では浅草見番。この20年間面接官は千葉さんです。
たまに芸者志望者が置屋(芸者さんの所属事務所)に来ることもあるそうですが、やはり浅草見番の千葉さんのところに紹介され、面接になります。
ですので、千葉さんはものすごい責任の重大さを感じているそうです。
それもそのはず。一人の人生と日本文化の継承が千葉さんの肩にかかっているのですから。

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こういうシステムですので、面接に訪れる人の数にはムラがあります。
例えば2003年には6-7人もの高校生・大学生が応募してきました。一番最近の2年前には19歳のOLの方がこの世界に入ってきたそうです。また志願者のない時期もあります。
もちろん料亭での仕事量と芸者さんの需要のバランスを考えるのも千葉さんです。今はこのバランスがとれていますが(浅草には現在料亭8軒・芸者男女30名 20-90歳)、芸者さんも年齢が年々上がるので、浅草花柳界の継承のために必要に応じて受け入れたいと考えているそうです。

芸者さんの面接ではどんなところがポイント?

千葉さんに面接の時に何をみていますか?と聞くと、芸事に興味あること・真面目さ・素直さ・勘の良さなのだそうです。
それなりの財力のある立場の人と話をしたりするのだから、政治・経済を知っていたり、頭の切れる人でないといけないのでは?の質問には、知識をひけらかすより、聞き上手になるのが大切とのお答え。

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実は、芸者さんの就職には自分の意思ともうひとつ必要なことがあります。それは親の許可です。
理由は人一人を預かることの承認と芸者の仕事を始めるのには高額の衣装代・かつら代・お稽古代などがかかるからです。この金額は所属の置屋が立て替えますが、もちろん本人が働いて返済しなければなりません。

もし芸者さんの就職が決まったら千葉さんがその人に合った置屋を紹介してあげます。
そこで芸者としてのお稽古・修行が始まります。その期間は現在約6ヶ月から1年。その後芸者デビューとなります。見番・置屋だけでなく、浅草花柳界のみんなが新しい芸者さんの成長をやさしく見守ってくれるそうです。

架空の料亭「悠游亭(ゆうゆうてい)」@浅草見番で芸者さんのお仕事ぶり拝見

千葉さんいわく、”その場でしかわからない雰囲気”があるので、芸者志願者には必ず”実際の料亭での芸者さんの仕事ぶり”を見せて、本当にやりたいかどうか判断してもらうそうです。
という理由で、千葉さんからその疑似体験をしてみるように勧められて、私も”料亭での芸者さんの仕事ぶり”を、お客の視点ではなく、擬似芸者志願者の視点で覗いてきました。

浅草見番の架空の料亭「悠游亭(ゆうゆうてい)」の入り口。ここで靴を脱いでおもてなしをされに2階へ。
浅草見番の架空の料亭「悠游亭(ゆうゆうてい)」の入り口。
ここで靴を脱いでおもてなしの場へ。

 

おじゃましたのは「悠游亭(ゆうゆうてい)」。
一般の人に芸者さんのおもてなしを経験してもらう為にできた「悠游亭」は浅草見番のお稽古場に作られた架空の料亭です。ちゃんと本物の料亭のおかみさんがお料理を出しています。

宴会開演の10分くらい前に見番の入り口に一歩入ると、大人数の色鮮やかな芸者さん・太鼓持ちさんたちがこれから本番という臨場感とモクモクの煙草の煙の中でスタンバイしていました。なかなか圧巻な風景です。

お座敷に初めて入るときには全員がすばやい正座で「いらっしゃいませ」のごあいさつ。みんな機敏で早い早い!
お座敷に初めて入るときには全員がすばやい正座で「いらっしゃいませ」のごあいさつ。
みなさん機敏で早い早い!

芸者さんがお座敷に入るときには一人づつ素早く正座で「いらっしゃいませ」とおじぎして、それぞれ本当に美しい所作と笑顔で機敏にお客さんのお酌と会話に徹します。
そして一箇所にとどまらすに、キビキビと、しかしスムーズに席を移り渡ります。着物のすそが畳を引きずる衣擦れの音をさせながら、走ってるようで走ってないくらいの速さです。
座る時には、その着物のすそを半円に近く床に広げてシャンと正座。お尻がきれいにそろえたかかとに1cmくらいついていない!座った後姿も気にしている!

お客さんのおもてなしにシャンと正座する時には着物のすそはきれいに広げます。
お客さんのおもてなしにシャンと正座する時には着物のすそはきれいに広げます。

この一連の作業中ほとんど静止している時がありません。なので、写真撮影が非常に困難です。
この後、舞台で踊りの披露 → またお座敷に戻って機敏な動きでおもてなし → 舞台でお座敷遊び という流れで2時間ぶっ通しのパフォーマンスです。

走るように歩く芸者さんの着物のすそは畳の上を衣擦れの音をさせて流れるよう。
走るように歩く芸者さんの着物のすそは畳の上を衣擦れの音をさせて流れるよう。

重いかつらと着物で正座・素早く歩く・もてなす・踊るを繰り返すのはなかなかの重労働のはず。
それでもずっと美しい所作と笑顔は一貫しています
本当に訓練とプロ意識の成果なのだと思いました。芸者さんたちは”ザ・仕事人”です。
もし私が芸者志願者だったら、憧れると同時にそのプロっぷりにちょっと圧倒されたかもしれません。

次回は最近就職した芸者さんと実際にお会いして、ご本人の就職活動・修行・デビューしてからのお仕事についてお話を伺う予定です。
また、浅草にしか残っていない男芸者さん(太鼓持ち)の活動、実は一人の若い女性が数年前にこの太鼓持ちになったこと、興味そそられませんか? こちらも別にご紹介予定です。

奥が深ーい浅草花柳界。この「浅草花柳界シリーズ」はまだ終われそうにありません。

この記事を書いた人/提供メディア

Kumiko

独自性研究員。 独自のアイデアで、”考える”機会を与えてくれるものに惹かれます。 また、時間の動きに興味があり、今流行っているものよりも、その先: 時間を先に引っぱっている事や人、または、それ以前: 時間が刻まれた物をいつも探しています。東東京にはこれらの要素がいっぱいで飽きることがありません。

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