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2014.02.26 (Wed)

かつら業界のパイオニア「コマチヘア」@浅草

「コマチヘア」は大正14年創業、職人気質の「かつら」づくりに徹している専門店です。役者さんや日本舞踊家の本格的な日本髪かつらだけでなく、趣味の踊りや余興に使う洋かつら、ヘアーピース、また成人式や七五三用の髪飾りなど、充実の品ぞろえで、全国にファンをもつ老舗です。看板娘の岩崎有希子さんに、お話を聞きました。

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かもじから新しいかつらへ

私の祖父は“かもじ”職人でした。向島のかもじ屋さんに丁稚奉公し、独立して浅草で「小町屋」を始めました。かもじとは、日本髪を結う際に使う入れ毛のこと。日本髪を結い続けると、髷(まげ)の部分があたる地肌の毛が生えてこなくなったそうで、それを隠すためにも、昔はかもじが必需品だったのです。

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日本髪の需要がだんだん少なくなってくると、祖父はいろんなヘアスタイルに対応できるヘアピースやウィッグを始めました。かつらのトップブランドを目指したのです。昔ながらの日本髪のかつらは、台金(だいがね)という固いヘルメットのようなものに、髪の毛を植え込んで作ります。いわば日本髪の形にできあがっている金属の帽子を被るイメージ。今のかつらのような、ネットに髪の毛を植え込む方法を考案したのは、うちの祖父なんです。実はCMでしょっちゅう見る有名なかつらメーカーの<ア○○○○>などの創業者は、うちの会社から独立した人なんですよ。

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60~70年代のウィッグブームがあった時代に工場を広げ、身障者の方を雇用して、祖父は小学校しか出ていないのに勲章もらったりしているんです。私が3歳になるかならないかの頃に亡くなっているので、ほとんど覚えていないのですが。明治の男でおっかない人だったらしいけれど、そんな祖父が日本女性が自由に装うことに情熱を傾けたというのがおもしろいです。屋号を「コマチヘア」と当時は珍しかったカタカナの屋号に変えたのも祖父らしいなと思います。

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最近の流行は“盛りヘア”用

現在、日本髪のかつらのご注文は、ほとんど日本舞踊など舞台用です。サイズは3種類ご用意しています。最近はアジャスターが付いているので幅広く対応できるのですが、頭周りだけでなく幅、奥行き、髪の毛の量によって、かなりサイズが変わります。そのためよほど合わない場合は型をかぶせて測り、指定をして床山に作ってもらいます。
夜会巻きなどネットのかつらは、合えばすぐ持ち帰りいただけますが、ふくらみや高さなどお客さまによって好みがいろいろなので、その場合はスタッフが細かく対応できます。「こういうふうにしたい」と参考に写真やイラストを持ってこられる方もいます。

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かつらの他には成人式や七五三の髪飾り、日常の和装向けのヘアピースなどがあります。最近は“盛りヘア”みたいな感じが主流ですね。だから髪飾りも、しっかり結い上げた髪型に刺し込めるかんざしよりも、フワフワっとしたスタイルに向く、お花だったりキラキラした飾り、軽くてパチンと留められるタイプがよく売れます。

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“かつら”はおしゃれ用だけじゃない

かつらやウィッグは、おしゃれ用だけではなく、事故や病気で髪の毛を失った方にも需要が多いのです。昔は東北地方などで囲炉裏に落ちて火傷したことが原因で、髪の毛が生えなくなってしまった人が多かったそうですが、今は抗がん剤の副作用でかつらが必要になる方がほとんどです。失ってしまうのは頭髪だけではありません。たとえばある大学教授の男性の方は、講義をする際、眉毛がないと学生たちから不自然に思われるということで、眉毛をお買い求めになりました。

かつらって眉毛も、もみあげも、下の毛も、すべてあるんですよ。下の毛がないから恥ずかしくて温泉旅行に行けないとか、そういう話は実際にあることなんです。“ヅラ”とかいって馬鹿にする風潮がありますけど、毛のある人間に、ない人間の苦しみは絶対わからないと思うのです。毛がないばかりに閉じこもってしまう人もいるのですから。

遠い国から“かつら”を求めて

現在、新仲見世の本店、仲見世に2店と、全部で3店舗です。私は仲見世の店舗で接客しています。全国から、世界中から観光客が集まるのが浅草の醍醐味ですね。先日の大雪の日も、タイ、台湾、マレーシアなど雪が珍しい国からの観光客は、キャーキャー盛り上がってました。観光だけでなく、かつらや化粧品をお求めに海外からわざわざみえる方も少なくありません。たとえば化粧品は<三善>というブランドのものを扱っているのですが、映画や演劇、舞台用で、独特の発色があり、歌舞伎役者さんにも多くの愛用者がいます。外国のお客さまにもよく知られているブランドで、欧米のメイクアップアーティストも買いにこられます。タイの舞踊でも使われているそうです。中でもいちばん多いのはブラジル在住の日系人。遠く離れているからこそ、日本の文化を伝えたいという気持ちがとても強いのです。そういう方々がわざわざ浅草に、かつらや化粧品を買いに来てくださると本当に胸が熱くなります。

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有希子さんは、今は忙しくてお休みしていますが、以前はお正月に地毛で日本髪を結って接客されていました。やはり日本髪は日本女性には似合うし、とても華やか。100年位前までは誰もが結っていた髪型に、興味を持つ人がもっと増えればいいなと感じました。

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この記事を書いた人/提供メディア

Rie Tomita

Rie Tomita 東東京・プロジェクト 和文化研究員。10数年間、夫の仕事で東京以外の土地を転々としたのち生まれ育った浅草に戻ってきたので、東東京の魅力、残念な部分を冷静に見られるようになった。和装をはじめ、和文化関係のイベントを自身で主催、発信している。和装履物店 あさくさ辻屋本店の代表。

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