ホーム > インタビュー > 空き家&空き店舗で暮らす、遊ぶ! Vol.2: 元金物屋さんを改装したゲストハウスは「暮らすように、旅する宿」ー「レトロメトロバックパッカーズ」@西浅草

2014.04.21 (Mon)

空き家&空き店舗で暮らす、遊ぶ! Vol.2: 元金物屋さんを改装したゲストハウスは「暮らすように、旅する宿」ー「レトロメトロバックパッカーズ」@西浅草

スカイツリーを望む下町・浅草。世界各国からやってきた旅人が集う、言わずと知れた活気ある観光地です。桜が春の訪れを告げると、5月の三社祭に始まり、朝顔市、ほおずき市、そして隅田川花火大会……と、更なる賑わいを見せるイベントが待ち構えています。

さて、「空き家&空き店舗で暮らす、遊ぶ! 」第二弾はその浅草が舞台です。浅草には多くのゲストハウスが点在しますが、この街でおそらく一番小さい、一軒家を改装したゲストハウス、レトロメトロバックパッカーズをご紹介します。

一面がガラス戸になっている外観。ガラス戸には白いペンで直接、カレンダーやイベント情報などが書かれている。
一面がガラス戸になっている外観。ガラス戸には白いペンで直接、白いペンでカレンダーやイベント情報などが書かれている。

かっぱ橋通りの近くにある。可愛らしい看板を目印に向おう。
かっぱ橋通りの近くにある。可愛らしい看板を目印に向おう。

ごつごつとした石が緩やかに張り出し、洞窟のような雰囲気

国際通りからかっぱ橋通りへと抜ける小路沿い、住宅や小さな飲食店が立ち並ぶ場所に、今回の目的地の「レトロメトロバックパッカーズ」があります。外に面するエントランス部分は全面ガラス戸で、外に向かって解放感があります。ガラス戸をガラガラと開けるとオーナー兼女将の山崎早苗さんが暖かく、そしてさりげない笑顔で出迎えてくれました。

レトロメトロバックパッカーズ、オーナー兼女将の山崎早苗さん。優しい笑顔で出迎えてくれる。
レトロメトロバックパッカーズ、オーナー兼女将の山崎早苗さん。優しい笑顔で出迎えてくれる。

入口を入ると、こじんまりながらも宿泊者がくつろげるリビングスペースが。受付カウンターの上部には宿のロゴが入った壁が下がっていますが、これは木枠と網とワラを埋めて作られたのだそう。壁沿いに設置されたベンチはデコボコしているけれど、座ってみると絶妙にしっくり。山崎さんの人柄同様、さりげない温かさが伝わってくるインテリアです。

受付カウンター。黒い部分はブロックで土台を作り、その上にスタイルフォームをかぶせ、削って曲線をだし、最後に石や黒い色粉をまぜたセメントを塗っている。独特の丸みが面白い感じに。
受付カウンター。黒い部分はブロックで土台を作り、その上にスタイルフォームをかぶせ、削って曲線をだし、最後に石や黒い色粉をまぜたセメントを塗っている。独特の丸みが面白い感じに。

リビングスペースはほの暗く、落ち着いた雰囲気。
リビングスペースはほの暗く、落ち着いた雰囲気。

テーブルはベッドを作ったときの余った木材で作成。壁側のゴツゴツソファがしっくり。
テーブルはベッドを作ったときの余った木材で作成。壁側のゴツゴツソファがしっくり。

もともと旅行好きな山崎さんがゲストハウスを始めようと思ったのは大学在学中のこと。

「やりたいとうっすら思ってはいたのですが、物件探しなど具体的にはしていなくて、その後旅行会社に就職して、コツコツ資金を貯めていました “やっぱり宿をしたい! ”とはっきり思ったのは就職して3年後の2011年の震災がきっかけです。今までは日本人を外に送り出す仕事をしてきましたが、今は海外の人に日本に来てもらって迎えるという、これまでと逆のことをしたいと思ったんです」

誰と出会って過ごすかが旅の醍醐味。それをカタチにしたかった

山崎さんが思い描いたゲストハウスのコンセプトは「暮らすように、旅する宿」。
「私自身、旅に行ったとき、どこに行ったとか何をしたかなどより、誰と出会って、誰と過ごしたかなどが、その旅を好きになる要因だったんですね。それをカタチにしようとすると、こんなカタチの宿が一番近かった…という感じですね」

パーティーを楽しむようなスタイルのゲストハウスもありますが、「私が人見知りなんで(笑)。ひとりでお茶を飲んでゆっくりしてたり、隣り合わせたゲスト同士でおしゃべりしたり。のんびりくつろげる宿にしたい、私がするならそんな感じかなと思いましたね」

貴重品を入れるロッカーも四角で統一。お茶や紅茶も宿泊客なら自由に入れて飲むことができる。
貴重品を入れるロッカーも四角で統一。お茶や紅茶も宿泊客なら自由に入れて飲むことができる。

海外からの観光客を迎えるならば“浅草・上野近辺”と決めて、いざ物件探しをスタート。東京R不動産や東京スタイルCCなど、リノベーションできそうな物件を紹介しているサイトや、その他の不動産サイトはもちろん、浅草・上野界隈の不動産屋をしらみつぶしに当たったのだそう。

「条件は100㎡くらいで改装OK、上野・浅草のどちらから徒歩圏内の賃貸物件。とにかく物件自体が少なかった上に、“ゲストハウスを開く”と行っても本気にしてくれない不動産屋も多かったんです。そこで事業計画書を作成し、資金繰りなどの説明もして、ようやく信用してもらいましたね」

そんなときに出会ったのが、金物屋兼住居として使われていた建物でした。
「空き家で築55年ということもあり、最後の賃貸と思っていたそうで、大家さんも寛大で、長く使ってくれるなら改装もがらりと変えてもOKと。不動産屋さんが“おもしろそうなことをしようと頑張ってるよ”と、後押しをしてくれたみたいです」

物件候補が挙がるたびに図面を持って保健所へ

物件が決まり、いよいよリノベーション工事を開始。大工の渡部さんは、入谷のゲストハウス「toco.」を運営している、山崎さんの後輩に紹介してもらいました。「マルより四角が好き」「暗くてゴツゴツしているのが好み」などイメージを伝え、大工さんがアイデアを出して作り上げていくという行程でした。

「とにかくイメージを伝える感じで、改装が始まってから、たぶん私は10日くらいしか家に帰っていないと思います(笑)。それこそ寝泊まりしながら出来上がっていく様子を目の当たりにしていたので、問題はありませんでしたね」

作業は、友人をはじめツイッターやフェイスブックで集まったメンバー述べ50人に日替わりで手伝ってもらいながら、約2か月かけて完成しました。

「みんなでやると楽しいですし、開業前にファンを作ったり、人とのつながりを持つことができますよね。この方法はtoco.からアドバイスしてもらったんですよ」

1階奥の階段を上がると宿泊スペースになっている。
1階奥の階段を上がると宿泊スペースになっている。

オリジナルで造作した2段ベッドが並べられたドミトリー。それぞれカーテンで仕切られていて、1人の空間がゆるく保たれている。各ベッドにコンセントと読書灯付き。
オリジナルで造作した2段ベッドが並べられたドミトリー。それぞれカーテンで仕切られていて、1人の空間がゆるく保たれている。各ベッドにコンセントと読書灯付き。

客室部分は天井を抜き、梁を抜き出しにしているので、開放感がある。
客室部分は天井を抜き、梁を抜き出しにしているので、開放感がある。

ゲストハウスを始めるにあたっては、保健所で旅館業の営業許可を取り、建築基準法を区役所でクリアし、消防署の許可を取る必要があります。さらに飲食を提供するならば食品衛生管理の資格がなければいけません。

「旅館業の営業許可を取るのがとても難しくて、例えば“この物件に決まりました!”と申請に行っても、許可が必ず取れるとは限らないんです。なので、候補の物件が出てきたところで、決定していなくても図面を持って保健所に出向いて、どのようにリノベーションする予定かを伝え、許可を取るために必要な修正点などをすりあわせていきました」

共有のトイレのドア。山崎さんの実家の土地をモチーフにしてデザインしてある。
共有のトイレのドア。山崎さんの実家の土地をモチーフにしてデザインしてある。

2階にある洗面スペース。壁は黒板塗料で深緑。洗面もタイルも鏡も四角に。
2階にある洗面スペース。壁は黒板塗料で深緑。洗面もタイルも鏡も四角に。

開業資金は、半分は自己資金で、半分は台東区に資金援助あっせんしてもらいました。

台東区では「開業支援資金」という制度があり、台東区のあっせんで金融機関から開業資金の借り入れを行うことができます。貸付利率の50%までを区が補助。また保証料も全額区が補助してくれます。事業計画書を持って行くことは必要ですが、内容についてアドバイスももらえるのだとか。これから開業したいと考えている人は覚えておきたい制度ですね。

こうして2012年3月7日、レトロメトロバックパッカーズがオープンしました。素泊まりでベッドメイクは各自で行うスタイル。1階リビングの扉の向こうにはキッチンやシャワールーム、ランドリーなどを用意。2階が宿泊スペースで、男女混合のドミトリーと、女性専用のドミトリーがあります。リビングはほのかな灯りでほっこり落ち着いた雰囲気で、お茶や紅茶などは無料でいただけます。

1階にあるバスタブ付きのシャワースペース。
1階にあるバスタブ付きのシャワースペース。

こちらはバスタブがなく、シャワーのみ。
こちらはバスタブがなく、シャワーのみ。

1階リビングの奥にはキッチンスペースがあり、自由に使うことができる。ランドリーも完備。
1階リビングの奥にはキッチンスペースがあり、自由に使うことができる。ランドリーも完備。

浅草はこれからがにぎやかになるシーズン! ゲストハウスに泊まったことがない…という人も、「暮らすように旅する」感覚を楽しむために、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

詳細情報

名称レトロメトロバックパッカーズ
住所東京都台東区西浅草2-19-1
URL

http://retrometrobackpackers.com/

その他
■レトロメトロバックパッカーズ
住所:東京都台東区西 浅草2-19-1
電話:03-6322-7447
営業時間:チェックイン15:00-22:00、チェックアウト10:00まで
料金:男女混合ドミトリー2,600円、女性専用ドミトリー3,000円
洗濯機 一回200円(洗剤込)、乾燥機 15分100円、タオルレンタル100円
朝食300円(炊き込みご飯とお味噌汁)
ヘアードライヤー、シャンプー・ボディーソープ、貴重品ロッカー、ポット、お茶、コーヒーなどは無料

URL:retrometrobackpackers.com/
Facebook:https://www.facebook.com/RetrometroBackpackers

この記事を書いた人/提供メディア

Chiho Takita

空き家&空き店舗活用研究員。普段はマネー誌のライターだが、地域に根ざした暮らしと仕事をしたいと思い、東東京マガジンライターに。浅草~向島界隈を中心に街歩きをしていたところ、空き家&空き店舗を再生して図書館やギャラリー、カフェ、イベントスペースに活用している事例を知り、これらの取材をするように。浅草在住。

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