ホーム > インタビュー > 空き家&空き店舗で暮らす、遊ぶ! Vol.3: 飲食のお店やイベントも活動中! 街と人がつながる下町の秘密基地ー「爬虫類館分館 BUNKAN」@京島・曳舟

2014.05.26 (Mon)

空き家&空き店舗で暮らす、遊ぶ! Vol.3: 飲食のお店やイベントも活動中! 街と人がつながる下町の秘密基地ー「爬虫類館分館 BUNKAN」@京島・曳舟

スカイツリーからほど近い曳舟・京島。京成曳舟駅から徒歩約5分のところにあるキラキラ橘商店街は、古い木造民家や昔ながらの八百屋さんやパン屋、惣菜屋などの商店が立ち並ぶ、昭和の面影を色濃く残す商店街です。ご近所との距離が近く、お隣さんに醤油を借りる…なんてことも実際にありそうな下町人情溢れる雰囲気でいっぱい!

今回の舞台は、そんなキラキラ橘商店街の/明治通り側の入り口にある「爬虫類館分館 BUNKAN」です。「爬虫類館分館」というのは建物の名前で、1階はカフェを中心に、日替わり店長の飲食店が出店しています。そのほか定期的なイベントも開かれています。一見怪しげな(?)建物のドアの先には、街と人がつながる不思議な空間が広がっているのです。

人との距離が近い手つかずの下町「京島」で、街の拠点となる場所をつくりたい

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「爬虫類館分館」こと、通称BUNKANは築80年ほどの古い一軒家を改装したスペースです。建築家の中西道也さんが一棟丸ごと借り上げてリノベーションし、運営は映画作家の後藤大輝さんが努めています。ちなみに店名ですが、爬虫類がいるわけではなくて、中西さんが“爬虫類”という字面が気に入ってこうした名前になったのだそうです。

「中西さんはその頃同じ墨田区で『天真庵』という蕎麦屋さんの改装工事をしていたんですが、表具師の人から“改装して住むなら空き家で面白い物件がある”と紹介されたんだそうです。中西さんは台東区の谷中に住んでいるんですが、谷中という街には、たとえば誰かが家でおでんパーティーをやっているとご近所の人が自然に集まってくるような独特のコミュニティがあって、中西さんのアパートがまさにその典型のような場所だったんです」と言うのは、後藤大輝さん。

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墨田区・京島は長屋や古い一戸建てなど、昔ながらの建物が残る、観光地化されていない数少ない下町のひとつ。ここを拠点にさまざまな人が集まり、つながりを生み出す「場」をつくりたい。この建物を地域再生のモデルにしようと中西さんは考えたのだそうです。それには誰かが住んでもらうのがいい。そこで、当時谷中で知り合いだった後藤さんに白羽の矢が立ったのだとか。

「最初の2年間は僕が住みながら2階をリノベーションしつつ、商店街の文化祭や祭りに参加したりと、京島の人たちと関わりながら暮らしていましたね。1階はもともとカラオケ居酒屋だったんだけれどほとんど物置状態で。でも、地域とつながるということを考えると1階にお店があったいいということになって。ちょうどベルリンから帰ってきたばかりだった寺門夏樹くんに出会い、喫茶店を開いてもらったんです」

ただし、寺門さんは昼の時間にコーヒーだけを担当したい。それならば食事は別の店長が、そして夜は別の店長のBarが出店するという、日替わり店長スタイルのコラボカフェ&Barができあがりました。

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ワークショップに参加してお茶をしたり、人と出会うことができる場所

BUNKANがオープンしたのは2010年の春のこと。
「1階の飲食スペースは夏樹くんが、それ以外の建物の運用は僕が担当しています。1階には西側にもスペースがあって、帽子屋さんが入居しています。2階は、僕が同じ京島の一軒家に引っ越したあとにシェアハウスとイベントスペースになりましたが、シェアハウスがなくなり、6月からは石鹸工房が入ります」

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石鹸のいい香りがする建物で、手作り石鹸のワークショップに参加したあとは、1階でお茶を飲んだり、ここで出会った人たちと話をしたり……。なんだかとっても楽しそう!

「これで建物のポテンシャルを大方発揮できるんじゃないかと思っています」

建物自体のオーナー兼プロデューサーは中西さん、後藤さんがマネージャー兼ディレクターという役割になっています。つまり、オーナーである中西さんが大家さんに一括で家賃を支払い、店舗を出している夏樹さんや帽子屋さんなどが中西さんに家賃を支払う形です。

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「あらかじめ大家さんに改装もシェアもいいと了承を得ているので問題はないですね」

寺門さんが担当する飲食スペースは、寺門さんの喫茶店「珈琲の樹 LAT36°N」が夕方まで、夜は「tome tome」というBarを基軸に、現在店長は15人前後が揃い、日替わりでいろいろなメニュー&スタイルのお店を楽しむことができます。

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利用料金については、「日替わり店長の場合、昼の時間帯で週1回の利用なら家賃は月1万円で、光熱費がかかるかかからないかは、お店の形態により異なります。僕の店も昼間はやっているので、コーヒーは僕が出して必要ならばサポートもしつつ、売り上げはそれぞれのお店で管理するスタイルですね。ここでお店をずっとしていただいてもいいし、将来独り立ちという感じもいいと思います」と、珈琲の樹 LAT36°Nのマスター、寺門さんはいいます。

飲食スペースのリノベーションは中西さんに依頼し、寺門さんが材料費などの実費を負担しました。

「実費は40万円程度で済みました。飲食店は食品衛生管理の許可が必要ですが、1つの店舗(というか建物)で許可が取れていれば問題ありません。中西さんへの施工費に関しては後払いにしてもらって、その分を家賃に上乗せしてもらっています」(寺門さん)。

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中西&後藤メソッドの“空き家再生法”

BUNKANは、中西さんと後藤さんが思い描く「人と街でクリエイティブする家」のスタートモデルという位置付けです。これは、“人や街がつながることは自然なことで、さらに新しい文化やモノ、コトを生み出す家”という意味。レトロな建物が残っているのが京島の魅力ですが、更地になり、画一的な建て売り住宅やアパートが建てられるというケースも少なくありません。

「古くて魅力的な建物があったら大家さんに交渉して、借り主を探すという活動をしているんです。実際いま動かしている案件が4つあり、これらも始動段階に入っています。古い家を建て直したものは、この街の雰囲気に合わないこともあるし、まったく街につながりのない人が移り住んだとしても、ここを“面白い”と思ってきてくれるのでなければ、相乗効果が薄くなる。家と街と人がつながって、開かれていくというか……。そんな関わりのほうが面白くなるんだと思うんですよね」(後藤さん)。

中西さんと後藤さんの空き家再生法には、確立されたメソッドがあります。まず、後藤さんが自転車などで街をリサーチ。感じのいい空き家を見つけたらご近所の人に声を掛け、「僕は近所に住んでいるんですが、友達が家を探しているので、よかったら大家さんの連絡先を教えてください」と聞くのだそうです。

その後大家さんと交渉し、物件情報を友達や知り合いへとつなぎます。後藤さんが入り、家賃や礼金、敷金、改装の許可などある程度固めてから、不動産屋さんへ行き、あらかじめ決めた条件に沿った契約書を作成してもらうという形をとることが多いのだといいます。

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「古くて長い間空き家になっている物件は、手を入れないと住めないことが多くなります。大家さん的には投資資金の回収はもう終わっているから、そのまま放置していることがあるんです。そんな際に僕たちが話を持ちかけると、街も活性化されるし、そのままにしておくよりもいいからという理由で、お値打ちな家賃で貸してもらえることがあるんですよ」

最近は改修すれば住める物件を、大家さんに改修費を出してもらい、中西さんが施工するというパターンが増えてきているのだそうです。でも、大家さんにも改修費の上限があるのでは?

「もし改修費が足りなかったり、中西さんの施工費などが出ないという場合は、たとえばお店ならば売り上げの一部を一定期間受け取る、つまり後払いしてもらうようなシステムにしています」

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最近では古い空家だけでなく、新築でも“街の拠点となる人とつながるスペース”ができないかと思案中とのこと。

「新築でも街の雰囲気にマッチして、住むだけでなくイベントが行われたりと、人と人が関われるスペースになっていけばいいと、最近新築のプロジェクトも動き出しました。そのほかにも、京島の空き家情報は随時持っているので、もしここでなにか始めたいという人は相談に乗れますよ(笑)。ご近所で仲のいい不動産屋さんでも改装やシェアOKの物件の情報も提供してますし、BUNKANなどでそうした不動産相談ができたら面白いなと思っています」

ヒガシ東京で最近注目されている谷中や浅草、蔵前などではなく、どことなく昭和の面影が残る夕焼けの似合う素朴な街、京島エリア。古き街の良さを活かしつつ、新しいことを受け入れられるカルチャーも魅力のひとつ。面白いことや新たな出会いを探して、BUNKANの扉を叩いてみては?

詳細情報

名称爬虫類館分館 BUNKAN
住所東京都墨田区京島3-17-7
URL

http://www.bunkan.com/

その他営業時間:
珈琲の樹 LAT36°N 8:00-17:00
tome tome 17:00-23:00頃(営業時間はお客さんの入り状況により多少変動。一日店長店舗の営業時間はブログを参照)

問い合わせ先:
https://www.facebook.com/hacyuuuruikanbunkan

この記事を書いた人/提供メディア

Chiho Takita

空き家&空き店舗活用研究員。普段はマネー誌のライターだが、地域に根ざした暮らしと仕事をしたいと思い、東東京マガジンライターに。浅草~向島界隈を中心に街歩きをしていたところ、空き家&空き店舗を再生して図書館やギャラリー、カフェ、イベントスペースに活用している事例を知り、これらの取材をするように。浅草在住。

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