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2015.02.20 (Fri)

家電を愛する男 DESIGN UNDERGROUND@足立区<恋におちる Vol.3前編>

2月といえば、バレンタイン。それにちなんで2月の東東京マガジンの特集は「恋に落ちる。」をテーマとします。

恋といっても、今回の恋は男女の甘酸っぱい恋ではなくて、ユニークな視点で色々な物や事にのめり込んでいる偏愛(=恋している)を持つ方々を取り上げたいと思っています。

何かをとてつもなく好き・のめり込むということは、情報が氾濫しトレンドがどんどん移り変わる現代において、心のよりどころにもなりえ、自分のアイデンティティを感じる必要な能力のように感じます。

今回の特集では取材させていただく方々の恋がどんな恋なのか、どんなキッカケでその恋がはじまったのか、恋するためのヒントなどを様々な4組に伺っていき、読者に自分らしい生き方のヒントをご提供できればと思っています。

vol.3 は、家電蒐集家・家電考古学者、DESIGN UNDERGROUNDというファクトリーを主宰されている松崎順一さんにお話しをお伺いします。

カセットテープが目印

つくばエクスプレス「六町駅」を降りて、徒歩30分(!)。足立区内の閑静な住宅街を抜けて地図を頼りに辿り着いた先は、団地が立ち並ぶとても静かな場所でした。

団地の中に古い商店街があり「平成の世の中にこんな風景が残っているなんてすごいなー」と感動していたら、その店舗の一角にDESIGN UNDERGROUNDはありました。

ここは一般向けの店舗ではなく、家電蒐集家・家電考古学者の松崎順一さん(以下、松崎さん)が集めてきた家電を保管したり、壊れた家電を直したりするための場所です。表に目立った看板はなく、入口に取り付けてあるカセットテープが目印。このカセットテープがケースに入っているときは在室中、入っていないときは不在という合図なのだそうです。

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松崎さんと家電の恋愛模様

──早速ですがお話を伺います。今回は「恋におちる。」というテーマですが、恋愛の恋ではなく、ある特定の対象に偏っている方々にお話を伺っています。

松崎さん ぼくの場合は表現でいうと(家電に)“取り憑かれている”という感じです。取り憑かれているというか、ぼくが取り憑いているというか、憑依している感じもありますけどね(笑)。

“すき”というより、もう“すき”を超えてしまっていますね。それぐらいこの世界に入り込んでいます。

──松崎さんはお一人で家電蒐集、修理をなさっているのでしょうか?

松崎さん 基本的には一人です。自分一人だけの作業の場合はここで作業をしています。ただ、一緒に活動をしている方はプロジェクトごとにいて、ブレーンは何十人もいます。常に十数件のプロジェクトを同時進行していて、基本的には、自分のすきな活動の延長線にあるお仕事をしています。

ぼくは嫌いなお仕事はしません(笑)。合わないと思ったり、自分のすきなカテゴリーではない場合、お断りすることもあります。自分のモチベーションがあがりませんから。依頼していただく仕事よりも、自分で提案することの方がおもしろいので、企画を持ち込むこともあります。割合としては、半々くらいでしょうか。動くのはあまりすきではなくて、外に出て人に会うよりも、家電と会っていたいですね。

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家電と会っていたい。それは、まさに、恋ですね。

松崎さんは専門学校を卒業後、インテリアデザイナーとしてデザイン会社に勤め始めます。会社員時代の休日はリサイクルショップなどを巡って古き良き家電を集め続け、ご自宅は一方の壁が見えなくなるほど家電が積み上っていったそうです。30代後半、このまま企業のインテリアデザイナーとして埋没してしまうのだろうか… と思ったことをきっかけに独立を決意。40代で会社を辞め、その後約一年間はリサイクルショップで流通の基礎を学ばれたそうです。そのような経緯を経て、約10年前、DESIGN UNDERGROUNDを主宰し、家電蒐集家としての活動を開始されました。

家電蒐集家になるまで、家電蒐集家として

──月並みな質問ですが、松崎さんはお仕事を辞めるときに、不安はありませんでしたか?絶対大丈夫という確信があったのでしょうか?

松崎さん 不安はすごいありましたよ。家族にも怒られたし… ついに気が狂ったの?と思われていました。家電蒐集という誰もやっていないことを始めるのに、大丈夫という確信は絶対に持てないですよね。だから、無理矢理な確信です。想定する確信。多分大丈夫だという確信。100%大丈夫ということはあり得ないですからね。でも、有言実行じゃないですけど、自分が言ったことを叶えるというのはできるのかなと思いました。今もその途中ですけどね。

──「ラジカセのデザイン!」という本を出版されていますが、最初の蒐集家電はラジカセがメインだったんですか?

松崎さん いいえ、最初はラジカセがなかったんです。会社員当時から集めていたコレクションが種類を問わず相当数あって、家の中が通路までいーっぱいになってしまって。家の通路の片側が家電の壁になっていました。自分の部屋も家電だらけになってしまいました。

──すごいですね!目的は、家電を見ていたい、ということでしょうか?

松崎さん 見るというより、家電に囲まれているのがすきなんです。部屋の中、壁、床、天井まで家電に囲まれた部屋というのが夢です。今はかなり近くなってきています(笑)。

家電で部屋を埋めるといっても、なかなか簡単にできないので、ラジカセだったらちゃんと棚を作ればできるかなと思ったんです。実は、2年ほど前にマンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の中で、ぼくの考えている部屋を著者の秋本治さんに描いていただいたことがあります。亀有署のラジカセコレクターとして登場したのですが、部屋中ラジカセに囲まれた絵を描いていただきました。だから設計図は既にあるんですね(笑)。これは東京下町繋がりというご縁で実現しました。

──ファクトリーの中に所狭しと家電が積み上っていますが、これは修理を待っているという状態なのでしょうか?

松崎さん 待っているというよりは、かわいいので集めてきて、そのまま置いてあるという状態です。時間があれば直してみる。開けてみる。どこに何があるのかも大体把握しています。

──家電を集めたり、直したりする上で、これがすごくツボです!という作業はあるんでしょうか?

松崎さん 基本的にどの作業がツボということはありません。ぼくが探してくる家電は昔のものなので、大体は故障して動かなくなっています。このファクトリーはヨーロッパにあるカタコンベ(死者を葬る為に使われた洞窟、岩屋や地下の洞穴)のようなイメージです。ここは家電のミイラが保管されている場所で、その中からぼくが気にいった家電を持ってきて、中を開けて、直して、蘇生をするんです。家電が命を吹き返した瞬間がぼくとしてはたまらない。単体では直らないものもありますが、他の家電のパーツを移植して直るものもあって、それで蘇らせて息を吹き返した家電の音を聞くと、それで満足なんです。

ぼくはコレクターではないんです。

──手元に置いておきたいという欲がないんですね。

松崎さん 直して息を吹き返した家電には興味がありません。どちらかというとぼくの活動はキャッチ&リリースです。直ったら、こういう古い家電がすきな人にリリースします。自分の手元に置いておきたい欲はないんです。

よく雑誌などではコレクターとして紹介されますが、厳密に言うと、ぼくは蒐集家であってコレクターではありません。「蒐集」という言葉に対する分類カテゴリーがないらしく、コレクターと紹介されることが多いのですが、コレクターの人は集めてコンプリートするのが夢なんですが、ぼくの場合はリリースしてしまいますからね。

ぼくの場合は、集めるプロセスがすき。そして直すプロセスがすき。ぼくはモノを探して持つ喜びじゃなくて、モノを探して出会ったときの喜びの方が大きいんです。そのプロセスが楽しい、出会いが楽しい。そしてぼくが手を加えて直った、というプロセスが楽しい。

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日本で唯一の家電蒐集家・松崎順一さんは、家電の愛で方も唯一無二でした。お話いただくその姿が、まるで本当に恋をしている男の子のようで、だれかと好きな人の話をしているときの連帯感のような、終わらないでほしい時間の空気に包まれました。

後編では、松崎さんが密かに抱く今後の夢を伺います!

2月特集:恋におちる

<Vol.1前編>文字に思いを込める 活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS@台東区

<Vol.1後編>文字に思いを込める 活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS@台東区

<Vol.2 前編>スカイツリーに恋してる!写真家 石川明宏さん

<Vol.2 後編>スカイツリーに恋してる!写真家 石川明宏さん

<Vol.3 前編>家電を愛する男 DESIGN UNDERGROUND@足立区

詳細情報

名称■DESIGN UNDERGROUND
住所〒121-0062 東京都足立区南花畑5-15-14-105
URL

http://www.dug-factory.com

その他DESIGN UNDERGROUND取り扱い製品に関してのご質問、ご購入、貸出等はお問い合わせください。
なお、2015年現在、家電整備等の作業は行っておりません。整備・修理のお問い合わせはご容赦ください。
お問い合わせの際は、お名前は必ずフルネームを入力いただきますようお願いいたします。

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