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2015.06.17 (Wed)

「本の主人公が履く靴はどんな靴?」自由な発想から生まれる靴づくり屋chisakaの靴

『修理しながら 長くつき合える靴を 作っていこうと思う。』 靴づくり屋chisakaのホームページのトップには、手描き風のフォントでこの言葉が綴られています。

長い期間の着用と、修理を前提としている文章。コレクションシューズのように、きれいな状態でとっておくのではなく、履かれながら、その人と共に修理を繰り返し、時を刻む靴。 靴と人の理想の関係を表した、シンプルな文章です。

そんなメッセージを発信する、浅草に工房を構える靴職人、千阪実木さんを知ったのは「物語の主人公をイメージした靴を作っている職人がいる」という話を知人に聞いたことがキッカケです。“イメージを軸とした靴づくり”というアイデアの切り口、そして“靴との長いつきあいを願う文章”。色々なこだわりを感じ、お話しするのをとても楽しみにインタビューに伺ってきました。

物語の主人公をイメージした靴 〜物語のエピソードをエッセンスにしたモノづくり〜

――このような靴を作るに至った経緯を教えていただけますか?

千阪さん 銀座にある銀座教文館という本屋さんで、個展を開く話が出たんです。「場所は靴屋ではなく、本屋さん。本が好きな人に靴を見てもらうにはどうしたらいいか?」

それを考えていくうちに「本の中の主人公が履いている靴を作ってみたらどうだろう」というアイデアが生まれました。本を読む人が、思い思いに抱いているであろう「主人公たちの履いている靴」を作ってみよう。わくわくするコンセプトの誕生です。

工房には千阪さん作の靴が並ぶ

工房には千阪さん作の靴が並ぶ

――モチーフとなる作品はブックディレクター、幅允孝さんに選んでもらったと聞きましたが、その理由は?

千阪さん 自分の好きな本には、どうしても趣味嗜好や個人的なイメージがついてしまいます。自分自身もまっさら状態で想像を膨らませるために、幅さんに本選びをお願いしました。初めて手にとった本のイメージをそのまま靴にしたかったんです。

――どうして幅さんを選ばれたのですか?

千阪さん ラジオで幅さんが本を紹介するコーナーをよく聞いていて、新旧作品を分け隔てなくみる視点が面白くて、突撃しました(笑)。当然顔も知らない有名人ですから、ネットで事務所の連絡先を調べて・・というアプローチ方法でした。内容を説明したところ、おもしろそうだということで事務所にお邪魔することができ、ご協力いただける運びとなりました。

その最初の打ち合わせで「既存のイメージにひっぱられないように、靴の挿絵がない作品にしよう」ということが決まりました。既存イメージをゼロにした状態をつくり、「こんな行動する人は、こんな靴をはいているんじゃないか?」そんな風に想像して靴を作りました。

album

――そうして作った靴と作品のイメージは、個展でどのように受け入れられましたか?

千阪さん 個展では靴と、そのインスピレーションのもとになった文章を一緒に展示しました。思いがけなく日本F.スコット・フィッツジェラルド協会の方々が立ち寄ってくださり、ギャッツビーをイメージした靴と文章を見て、「この文章は、本の中でも重要な一文だよ!」と言ってくださったんです。安堵したというか、自分なりに何度も本を読みこんで良かったと胸をなでおろしました。

私のつくる靴はどちらかというと浅く広くではなく、深くコアなものだと思っているのですが、観ていただいた方も同様の方だったと思います。

別の時期に出したシェイクスピアの言葉が刻まれたブーツは、敢えてシェイクスピアが生きていた時代の言葉遣いにしています。普通の人は気づかない小さなこだわりなんですが、たまに気づいてくださる人がいらっしゃって…やっぱり作り手としては嬉しく思いました。

写真左がジェイ・ギャツビーをイメージされつくられ、右はレイチェル・カ−ソンをイメージしてつくられている

写真左がジェイ・ギャツビーをイメージされつくられ、右はレイチェル・カ−ソンをイメージしてつくられている

―こだわりが深いですね!本を読んだときはそこまで深く理解することを心がけていたのでしょうか?

千阪さん 大概の作品は、深く読み込むというよりインスピレーションで靴が作れたのですが、ギャッツビーだけは苦戦しました。というのも、そもそものキャラクターが複雑である上に、翻訳をする人によりだいぶイメージが変わります。もちろん原作があるものなのですが、語尾であったり言い回しであったり、最初に読んだ翻訳では、どうギャッツビーを表現したらよいのかがしっくり掴めなかったんです。結果、翻訳本を読み比べて自分なりの人物像をつくりあげることになりました。1957年に出版された古い書籍までさかのぼると、ギャッツビーの少し繊細そうな表現を見つけました。これだ!と思い、この靴が仕上がりました。

「おばあちゃんから譲り受けたアクセサリーみたいに大切にされる靴を作りたい」その思いから生まれる靴づくり

――そうやって靴に主人公たちの像を落とし込む靴作家さんは、千阪さんだけでしょうか?

千阪さん どうでしょうか。そもそも、靴を作っている人は世の中にたくさんいます。

私は編集者を経て靴づくりの道に進んだので、その中では後発隊です。そのため、私より古くから靴を作っている人たちの王道の靴づくりにはとてもかなわないということをよくよく理解しています。なので私の靴は、もう少し身近に感じてもらうための工夫というか。どんな人に履いてもらうかを考えて、自分が作るからこその色付けが必要だと考えていました。

靴は消耗品だけど、大切にしてもらえたらうれしいですよね。

思い入れだったり、エピソードがあると、物は大切にされるのだと思います。例えばおばあちゃんから譲り受けたアクセサリーなどは、とっても大事にしますよね。大事なのはエピソードなんです。「作品を表現した靴が作りたい」というよりは、エピソードを作ることで、「大切にしてもらえる靴を作りたい」、といった想いなんです。

――実際には、どんな方が千阪さんの靴を購入されていますか?

千阪さん やはりモノづくりが好きだったり、靴が好きだったり、こだわりの強い方が多いですね。

先日はイギリスの古くからある唄を刻んだ靴を作ったのですが、英国詩人ウィリアム・ブレイクの“Milton”の一節をいれました。イギリスの愛唱歌にもなっています。注文者の方が、靴に入れる刻印用の文章を決めるまで、なんと数か月…!どの文章がいいかと考えていたら朝になっていたこともあったそうです!

長いつきあいを予感させる靴

長いつきあいを予感させる靴

――それはすごいですね!これからは、もっと多くの人に作品を届けていく予定でしょうか?

千阪さん 色々な人に届けたいとは思いますが、実際手が回りません(笑)。

元々、多くの人に書籍を届ける編集の仕事をしていたところから、もっとコアなモノづくりをしてみたいという想いからこの世界に飛び込みました。色々な人が点数をつけて平均が70点くらいに落ち着く雑誌とは違い、今作っている靴はひとりが100点といえば100点の点数がつけられる商品です。ただ「良い」靴ではなくて、その人にとっての「良い靴」を作る。数ではなくて、その手ごたえに自分の靴づくりのよろこびを感じていきたいと思います。

靴づくりに情熱を注ぐ千阪さん

靴づくりに情熱を注ぐ千阪さん

今後はまた書籍の主人公シリーズをやるかも?また別のテーマに挑戦するかも?
ひとつひとつの靴を丁寧に作り上げ、そして長く愛される千阪さんの新作を、とても楽しみにしています!

それでは最後に、先日開催された浅草ものづくりの祭典「エーラウンド」の一環で作成されて千阪さんが登場する「つくることは、生きること」のビデオをご覧ください。

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