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2015.09.28 (Mon)

こだわりの音楽が一番のおつまみ「MUSIC BAR 道」@文京区湯島<思わず教えたくなる東東京の音楽スポット Vol.2>

(写真:松浦 文生)

ライブハウスというと東京の西側がメインのイメージがありますが、どっこい東側には一癖も二癖もある音楽スポットが点在しています。

今回はその中から、文京区湯島にある「MUSIC BAR 道」をご紹介します。バーの範疇を飛び越えた広がりと、人のつながりを味わえる空間です。

雑居ビルの階段を上ると…

湯島はふところの広い街だと思う。

学問の神様・湯島天神があるかと思えば、すぐ近くには妖しげな風俗街もあるし、老舗の料亭も少なくありません。旧岩崎邸庭園や東大の本郷キャンパスも徒歩圏内だし、少し北上すれば不忍池や上野恩賜公園、最近おしゃれになった谷根千エリアが広がります。

「MUSIC BAR 道」は、そんな湯島の中心部、千代田線・湯島駅の4番出口を出てすぐ隣に佇む雑居ビルを上がった3階にあります。

薄暗い店内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、カウンターの背後に並んだ1000枚以上ものアナログレコードが陳列する棚。そして壁のあちこちに飾られた音楽関係のポスターやポップアート作品の数々。店内に流れる音楽は、70年代のロックやフォークから、ブラジル音楽、レゲエ、さらには日本の若手ミュージシャンまで多彩なストックですが、1枚1枚にオーナー自ら選らんだこだわりがあります。

MUSIC BAR 道

(写真:松浦 文生)

オーナーの大久保裕文さんは、雑誌や書籍、広告のデザインを数多く手がけてきたグラフィックデザイナーで、無類の音楽好き。お店を始めたきっかけも、「僕は昔から千駄木育ち。もともと自宅に収まりきらなかったレコードを置くために、どうせなら店にしちゃおうと思った」(大久保さん)そうで、今でもレコード店やライブハウスに足繁く通っているのだそうです。

オープン当初は大久保さんの友人であるライターで放送作家の押切伸一さんが店長を迎えて、ふたりでお店を切り盛りしていました。現在は、オープン当時からスタッフとして働いていた岸本とも子さんが2代目店長に就任。2015年4月に開店6周年を迎えました。

MUSIC BAR 道

手前が現店長の岸本とも子さん(写真:松浦 文生)

ちょうど、お店で働くスタッフでもあるasuka andoさんとエマーソン北村さんによるライブがあったので取材に行きました。asuka︎さんは、今年4月にファーストアルバム『mellowmoood』をリリースしたばかりのシンガーソングライター。このアルバムで共演しているエマーソン北村さんは、MUSIC BAR 道での演奏はこれが初めてだとか。しかし、エマーソンさんは、東東京とのつながりがあるアーティストなのです。

豪華ミュージシャンが集まるフェスの主催も

エマーソンさんがソロで披露してくれたのは「両大師橋の犬」というオリジナル曲。ファンにはおなじみのこの曲は、台東区生まれの写真家・桑原甲子雄氏の作品にインスピレーションを得てできた曲だといいます。

MUSIC BAR 道

エマーソン北村さん(左)と、asuka andoさん(写真:松浦 文生)

「桑原さんは戦前、自分の家の近くの日常風景をたくさん撮っている写真家です。その中でも犬を散歩させている子供の写真の隅に、自分の影が移り込んでいるこの写真は、それほど有名な作品ではないと思います。でもなぜか不思議と胸に残っていて。この曲は日本国内や海外のライブやフェスなどあちこちで演奏していますが、今回初めてこの曲のモデルになった、両大師橋に一番近い場所で演奏できました」(エマーソン北村さん)

MUSIC BAR 道では、日頃からこうしたライブイベントを頻繁に開催しています。また2011年と2012年には、店を飛び出して上野恩賜公園野外ステージで、音楽フェス「『道との遭遇』 ヒガシトーキョー音楽祭」を開催しています。

もともとはお店の常連客である作曲家でプロデューサーの権藤知彦さんと、同じく常連客のバンド「くもりな」のアダチユーキさん、そして初代店長の押切さんが「盛り上がりを見せてきた東東京をもっと盛り上げよう!」と企画したもの。権藤さんのプロデュースで、細野晴臣、高橋幸宏、鈴木慶一、奥田民生、原田知世、高野寛、高田漣という豪華なミュージシャンが一堂に会す…という、もうここまでくると、MUSIC BAR 道はバーではあっても、バーの範疇を超えている、と思うのです。

サロン的な下町隠れ家バー

不思議なのは、音楽好きとミュージシャンが多く集まる店ではあっても、音楽に詳しくないと入店できない…というような敷居の高い雰囲気はないということ。むしろ、オーナーも店長もスタッフも、生業を持つ傍ら、音楽や食、映画、アート、スポーツ、工芸、占いなど、コアな趣味をそれぞれお持ちで、店内を借りて部活動的なイベントを開催するなど、サロン的な雰囲気が広がりを見せています。

例えば、イラストレーターのタケイ・A・サカエによるスリランカカレーを披露するイベントは毎月開催されているし、お酒を飲みながら書道や金継ぎに挑戦できるワークショップなど、音楽以外の企画もあったりします。

MUSIC BAR 道

「MUSIC BAR 道」のプログでは、音楽に限らず幅広いイベントの情報を掲載

「常連のお客さん同士が仲良くなって、卓球部やフットサル部が結成されていたりします。音楽好きが集まると“バンドやろうぜ!”ってなるのかと思っていたけど、まさかの運動部ができ上がっていて(笑)」(岸本さん)

「お客さんも普通のOLさんからクリエイター、近くで働く美容師さんと本当にさまざま。年齢層も20代〜70代と幅広くて、お客さん同士で仕事が始まっていたりするよね」(大久保さん)

取材を終えてひと息ついていると、ふらりと来た同年代の女性が「おひとりですか?」と声をかけてきてくれました。こだわりのあるいい音楽やお酒で、お店の雰囲気も人の気持ちも程よくほぐされたからなのか、それがまったく不自然ではない居心地の良さがあります。

でもカラーの違うさまざまな人や活動が交差するこの店の独特な空気感は、“湯島”という雑多なカルチャーを寛容するふところの広い土地柄と、このバーに集まる人たちの特性にあるに違いないと思うのです。やっぱり、場所をつくるのは、ハコではなく「人」なのだと思いながら、帰路に着きました。

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詳細情報

名称■MUSIC BAR 道
住所東京都文京区湯島3-35-6-3F
URL

http://www.miti4.com

その他

この記事を書いた人/提供メディア

鈴木沓子

主にアート、メディア、都市、公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をして生きています。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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