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2013.09.10 (Tue)

銭湯業界を救え!浅草日の出湯が取組む銭湯のミライを描くWEBサイト「SAVE THE 銭湯」

地下鉄銀座線 稲荷町駅から徒歩3分の場所にある、マンションのビルインタイプの銭湯「浅草 日の出湯」。接客が良いと評判で、古代檜でつくられた檜風呂がウリの良い感じの地域の銭湯。

もちろんそれだけでも素敵な銭湯なのですが、実はこちら、普通の銭湯とはひとあじ違う活動をしています。それが「SAVE THE 銭湯」というウェブサイトの運営です。

浅草日の出湯の外観。開店時は“のれん”もかかる。 (写真)浅草日の出湯の外観。開店時は“のれん”もかかる。

運営する田村さんいわく、「SAVE THE 銭湯は“公開ブレスト”の場」というのも納得。
同サイトでは、“1週間に1軒の銭湯がなくなっている”といわれる銭湯の課題や未来を面白くするアイデアをクリエイターや若手経営者を招き話す対談やインタビューが行われています。

今回は、この活動を行う、有限会社日の出湯の取締役で、浅草 日の出湯を経営する田村祐一さんにお話を伺ってきました。

“SAVE THE 銭湯”を運営するのは浅草 日の出湯の若き後継者、田村祐一さん

――銭湯を経営するというお仕事は珍しいと思うのですが、今までの経緯をお聞かせください。

もともと実家が銭湯を経営していまして、2003年に大学を卒業後、すぐにその会社「有限会社日の出湯」に勤めることにしました。

当時、この浅草 日の出湯は父がオーナーとして経営していて、僕は父が運営する蒲田の大田黒湯温泉第二日の出湯で下働きをしていました。その後8年ほど修業し、2012年5月に僕が日の出湯の経営を引き継ぎ、いまに至ります。
手前が古代檜でつくられた檜風呂 (写真:手前が古代檜でつくられた檜風呂)

――日の出湯をお父さんから引き継ぐキッカケがあったのですか?

父が経営していた浅草 日の出湯は当時、実際の運営は雇ったスタッフの方に任せていたのですが、その方が退職することになりました。
同時期に「銭湯を継続していくのは経営上難しいから閉店し、ほかのお店をはじめる」なんて話が持ち上がったんです。

それを聞いて、僕はすごくリスクが高い話だと思ったんです。初期費用も大きくかかるし、銭湯しかしていなかった会社が新しい事業を始めてうまくいくのかな?と思って。

それで、一番お金がかからなくて、工夫次第で着実に事業を進めることができるのは、銭湯を運営することだと思い、「僕が引き継ぐ」と切り出しました。
露店岩風呂 (写真:露店岩風呂の様子)

――田村さんが引き継いでから、日の出湯の調子はいかがですか?

おかげさまで少しずつ良くなっています。お客さんは以前に比べ、30%強増えました。
「接客の感じが良いと聞いてきた」と遠くから来てくださるお客さんもいます。
なんでも、銭湯のお風呂につかりながら、どこそこの銭湯が良いとか話すウワサ話のなかで、ウチの接客が良いと話してくれる方がいるようです。

「SAVE THE 銭湯のアイデアをみて『自分の銭湯でやろう!』という人が現れたら最高です」

――日の出湯を田村さんが引き継ぐまで数年ありましたが、WEBサイト“SAVE THE 銭湯”はどのタイミングで立ち上げたのですか。

SAVE THE 銭湯を立ち上げたのは2012年10月なので、日の出湯の経営を始めた後です。
もともと、何かブログをはじめようと思っていたのですが、銭湯を経営している人のブログはたくさんあるので、普通とは違う切り口で出来ないかな?と考えていました。

そのときに、以前からお世話になっている「小さな会社のブランド戦略」の著者でもある村尾隆介さんに相談していて、「SAVE THE 銭湯」というサイト名やクリエイターをお呼びして日の出湯の話でなく、銭湯業界についてアイデアを出すという内容や、ウェブマガジンのような見せ方で運営するというアイデアにまとまったのです。
WEBサイト“SAVE THE 銭湯”のトップ画面(写真:WEBサイト“SAVE THE 銭湯”のトップ画面)

――SAVE THE 銭湯で生まれたアイデアにはどんなものがありますか?

銭湯の壁面に映像を投射するプロジェクションマッピングをやって、色々な景色の中でお風呂に入れるようにしようというアイデアがありました。例えば、うちの露天風呂にグランドキャニオンの映像を投射して、グランドキャニオンの露天風呂に入っているようにしよう、みたいなものです。
他にも銭湯を「お風呂」ではなく都内では珍しい「大きな空間」と捉えて、企業などの研修に提案型の企画をしていくというアイデアもありました。

公開ブレストがサイトの1つのコンセプトにあるので、
このサイトをみて、「自分の銭湯でやろう!」という人が現れたら最高だと思っています。

――サイトを始められて約1年が経ちますが周囲の反応はいかがでしたか?

まず連絡をくれたのは、同じ銭湯を経営している人たちでした。会おうと連絡があったり、会った際にはお互いに困っていることを話したりしました。あとはマスコミの人たちが取り上げてくれました。
番台に座る田村さん。通常、田村さんが番台でお客さんを迎え入れている (写真:番台に座る田村さん。通常、田村さんが番台でお客さんを迎え入れてくれる)

――今後の目標を教えてください。

まず「日の出湯」の方ですが、「いつも空いてるけど、ちゃんと経営していける銭湯」を目指しています。
うちはすごく小さい銭湯なんで、お客様が増えると非常に居心地が悪くなってしまうんです。
だから、地域の人たちを大切にしながら、その理想の形をどう実現するか?というのを考えています。

「SAVE THE 銭湯」の方は、クリエイターへのインタビューは12人で一旦終了して、新しいコンテンツを考えています。
銭湯の入り方やローカルルールを書く「銭湯道」など候補にあがっています。

あとは、僕だけで運営するのではなくて、同年代のほかの銭湯経営者も運営サイドにお迎えして一緒にやることも視野に入れています。

――田村さん、お忙しいところありがとうございました!
古代檜風呂の説明看板。お客さんが汚れをとろうと拭き、字がにじんでしまったそう。こんなところからもお客さんと田村さんたちのほっこりとした関係が感じられる。 (写真:古代檜風呂の説明看板。お客さんが汚れをとろうと拭き、字がにじんでしまったそう。こんなところからもお客さんと田村さんたちのほっこりとした関係が感じられる)

銭湯業界に吹き込む新風。それが「SAVE THE 銭湯」

「熱い思いをもってこの業界に入ってきたわけではない。自分はぬるいんです。」
マスコミによく取り上げられてきたことに対しても、「熱い思いを持っている経営者の方を差し置いて、ぬるい思いの自分が取材を受けて申し訳ない」と話していた田村さん。

自分を「ぬるい」と表現するのも、銭湯をされている方ならではで面白いのですが、肩肘はらずに浅草 日の出湯を経営しているところや、「銭湯」というキラーコンテンツを、自社の銭湯を差し置いて銭湯業界全体の未来を考えるサイトとして運営するところが共感を得、注目を受けているのだろうと感じ、興味深くお話を伺いました。

ほかの業界の人にとっても新たな視点や仲間づくりのヒントになりそうです。

旧来の銭湯業界から一歩ひいた視点で「ソーシャルの風」を吹かせる田村さん。
今後の動きにも注目です。

みなさんもぜひ一度、日の出湯にお風呂に入りにいってみてください。田村さんが番台でやさしく皆さんを迎えいれてくれます。なお、田村さんは“お風呂あがりには炭酸水”を提唱しているそうですから、日の出湯での湯上がりにはペリエを飲んでみると良いかもしれません。
「お風呂あがりには、やっぱり炭酸水だよねー」なんて田村さんにひと声かければ、
ぐっと距離が近付くかも!?

詳細情報

名称浅草 日の出湯
住所台東区元浅草2-10-5
URL

http://hinodeyu.com/

その他
■SAVE THE 銭湯
http://savethe1010.com/

■浅草 日の出湯
・住所:台東区元浅草2-10-5
・営業時間:午後3時より深夜0時(最終受付23:40)
・定休日:毎週水曜日
・お問合せ先:03-3841-0969、hinodeyu@gmail.com
http://hinodeyu.com/

■田村祐一さん
1980年12月生まれの32歳。東京蒲田にある大田黒湯温泉第二日の出湯の四代目、銭湯の跡取りとして生まれ育つ。大学卒業後、家業である有限会社日の出湯に就職。26歳の時に取締役に就任。2012年5月より創業の地である浅草日の出湯のマネージャーとして銭湯経営再建に着手。
tamurasan

この記事を書いた人/提供メディア

Hiroyuki Imamura

東東京マガジン編集長。毎日を旅のような日々を送りたいと思っていたが、たくさんの人と出会い、たくさんの場所へ行く日々はいつの間にか旅のような日常になりつつある。東東京のトピックスで特に関心が強いのは、主宰者の人となりや独自の工夫が反映されたプロジェクト。まちづくり会社ドラマチックの代表社員。

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