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2017.01.11 (Wed)

商品づくりより「ファンづくり」 デザビレ村長に聞く“小さなブランドの育て方”

鈴木 淳
台東デザイナーズビレッジ
村長(インキュベーションマネージャー)
鈴木 淳

このモノが売れない時代に、数多くの人気ブランドを輩出し、入居には全国から約倍以上の応募がある人気の創業支援施設が東東京の台東区にあります。それが「事業を成長させたい!」と願うファッション関連の企業や創業者が集う「台東デザイナーズビレッジ(以下:デザビレ)」です。

入居期間は最大3年と限られていながら、卒業時には売上を数十倍に伸ばす卒業生もいるデザビレでは「ビジネスを軌道に乗せる」ために、どのような視点でアドバイスをしているか、皆さん気になりませんか?

今回はデザビレで村長(インキュベーションマネジャー)を13年にわたり務め、90組以上の創業者を支援してきた鈴木淳さんに、ブランドを成長させるために注力すべきことや東東京で起業する魅力をお聞きしました。

きっと、小さなヒントの数々があなたの可能性を大きく後押ししてくれるはずですよ。

鈴木 淳
デザイナーズビレッジの入居者との距離も近く、相談に気軽に答える鈴木村長

クリエイターや小さな企業の「ファンづくり」に大切な3つの要素

──創業したてのクリエイターやブランドが成功するには、どんなポイントがありますか?

大手企業は販路ができているので、商品開発とコミュニケーションだけで、売り上げをたてることができます。しかし、事業規模が小さければ販路をイチから開拓しなくてはならず、商品力だけでは勝てません。クリエイターが成功のために必要なことは商品力半分とクリエイター本人の魅力が半分だと思っています。知名度もない、価格も高い、商品の精度も高くない状態で市場に参入するわけですから、そこにクリエイター自身の魅力や、仕事の仕方、コミュニケーションの取り方など、本人の魅力をすべて交えて戦うことで、はじめて新たなお客様をつくることができます。

そこで、大切になってくる視点は「ファンづくり」です。ファンづくりをマーケティング用語でいうと3つの要素があります。自分のブランドのイメージを高める「ブランディング」とお客様をステップアップしながら育てる「マーケティング」、そしてお客様との関係を強化していく「エンゲージメント」の3つの要素をまとめて、ファンづくりと呼んでいます

──商品の質を高めるのと同じくらい、ファンとのコミュニケーションに気を配っていく必要があるというわけですね。

そうですね。かつては、広告的イメージを高めれば自動でブランディングになっていたんですが、今ではお客様をファンに育てるための方法をきちんと考えるマーケティングも必要です。SNSも普及し、ファンとのコミュニケーションを作るエンゲージメントも大切になりました。いかに自分のファンとして協力・応援してくれる人になってもらうかが重要なのです。

商品だけで選んでもらうのではなく、その人から買いたいというお客様をどれだけ増やすかが勝負。デザビレを卒業する際、お店を出したりオフィスを出したりしますが、その時に支援してもらった人やファンからどれだけ花を贈ってもらえるか、つまり3年間でどれだけ応援してもらえるネットワークを作れるかが、成否を分けるポイントだと思います。誰も応援してくれない、商品だけがあるブランドでは成功できないのです。
※マーケティング…ターゲットなるお客様のニーズやシーズを探り、今後のモノづくりに役立てること。
※エンゲージメント…お客様との直接的なコミュニケーションを深め、信頼性を高めていくこと。

鈴木 淳

手を動かすよりも頭と足を使ってビジネスを考える発想を

──デザビレの卒業生の中には、全国区で活躍するブランドもあります。うまくいっている方たちに共通することはありますか?

ビジネスを成功させる可能性が高い人の特徴をひと言で言えば「自分なりの成長法則を見つけた人」です。その法則は人それぞれ。計画性がある人、人の倍以上働く人、高いコミュニケーション力を使って多くの協力を得て伸びる人。逆に、ちょっと頼りないので自然とまわりがサポートしたくなる魅力をもつ人もいます。成功する人全員に同じ法則があるわけではなく、試行錯誤しながら自分なりの成長法を見つけたときに、いっそう伸びると思います。支援する側としては、その人の魅力をどのように活かしたら、いちばん伸びるだろうかという点を一緒に考えていきます。

クリエイター自身が間違った思い込みを持つことでうまくいかないケースもあります。例えば、クリエイターには、自らの手を動かすだけで仕事をした気になって安心してしまうタイプの人もいます。しかし、足を動かしてお客さんのところに伺ったほうがいいし、どうやったら売り上げが伸びるかを、頭を使って考える時間を持った方が伸びるんです。ですから、考え方自体を変える必要があります。客観的な視点で「それは違いますよ」と教えてあげるのも、私たちの役割だと思っています。

クリエイターと職人のシナジー効果が得られる東東京エリア

──次に、デザイナーズビレッジのように、クリエイターや創業者が東東京で事業活動することのメリットはどんな点にあるのでしょうか?

たとえば、デザビレがある台東区は、古くから職人さんや問屋さんが非常に多いところでした。ジュエリーの材料や道具を扱う御徒町、鞄の材料を扱う店が並ぶ蔵前、革を買うなら浅草や墨田区があります。墨田区はニットの産地でもありますね。クリエイターのハンドメイドから量産体制に切り替える際に使えるリソースが豊富な東東京は、ファッション・雑貨系のクリエイターや創業者にとっては、特に有利なエリアなんです。東東京を知らない人は、ユザワヤや東急ハンズが町中に広がっている感じを思い描いてもらうと分かりやすいと思います。

──作り手にとってはワクワクするような環境がすぐ近くにあるというわけですね。

遠方からデザイン画を郵送して製品を作ってもらうのと、実際に職人と顔を突き合わせて一緒に検討しながらモノづくりをするのでは、最終的な品質や魅力が全然違ってきます。書類だけのやり取りだと、両者が書類の仕様に合わせることが目的になりがち。クリエイターにセンスがあったとしても、モノづくりの細かい仕様までは分からない場合が多いですし、生産効率も分からない場合が多い。

ところが職人側は、いろいろなクライアントと仕事をしているのでノウハウの積み重ねがある。クリエイターと職人の両者が出会って仕事できれば、さらに売れる商品、ファンが欲しいと思ってくれる商品を作ることができます。また、職人や工場と意気投合すれば「お互いに力を発揮して良いものを作ろう」というシナジー効果が生まれることもあります。その点が、東東京で仕事をするうえでの、もっとも大きな魅力だと思います。

鈴木 淳

コストメリットが高くインバウンドも期待できる

──産地や職人さんに近いことで、より質の高いモノづくりが体現できるということですね。その他にも、東東京で創業するメリットはありますか?

それはコスト面ですね。モノづくりを行うにはある程度広い場所を用意する必要があります。家賃コストや居住コストが安いことは、製造原価を下げるうえで非常に役に立つはずです。東東京でモノづくりをして、全国に発信していく。さらには、東京という大消費地も近いことは有利だと思います。かつて、蔵前・浅草には問屋が多く、江戸時代の昔から隅田川の河川を使って物品を運んでいました。東東京は古くから物流拠点として非常に理にかなった場所だったわけです。

また東東京は、上野・浅草・秋葉原という国内有数の大観光地に囲まれています。海外にもよく知られていますから、お客様がたくさん訪れる。羽田空港や成田空港へは、浅草や蔵前から一本で行ける。海外に自分のブランドを売り込みたい、ビジネスを展開したいと人にとっては、地理上のメリットも大きいと思います。これからは、ますます東東京で作ったものを東東京で買ってもらえるという環境になってくると思います。ファッション業界でなくても、国際的に仕事をしたい人にとって、魅力ある土地だと思いますね。

鈴木 淳

台東デザイナーズビレッジ
平成16年に設立したファッション・デザイン系のクリエイターのための創業支援施設。創業5年以内のクリエイターや手作り作家が入居。平均年齢は30歳前後、うち女性が約8割。成長意欲やクリエイティブ能力が高いが「お金がない」「ノウハウがない」「ネットワークがない」「経験がない」などの理由があり、デザビレを使うことで成長できそうな人が優先的に入居できる。入居後の3年間で自立して事務所や店舗を構えられるまで成長することを目標に、ビジネスを軌道に乗せるためのカウンセリング指導などを受けることができる。入居者同士の年齢が近く、モノづくりという共通した志向があるので、お互いに交流しやすく、ネットワークが作りやすいこともメリット。これまでに70組以上の卒業生を輩出している。
〒111-0056 東京都台東区小島2-9-10
電話:03-3863-7936 / FAX:03-3863-7937
http://designers-village.com

この記事を書いた人/提供メディア

イッサイガッサイ 東東京モノづくりHUB

Eastside Goodside (イッサイガッサイ) 東東京モノづくりHUBとは「CREATION IN EAST-TOKYO」を合言葉に、モノづくりが盛んな東東京の「ヒト」と「モノ」と「バ」をつなげて創業者をサポートし、東東京をワクワクする地域に変える創業支援ネットワークです。 https://eastside-goodside.tokyo/

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