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2013.10.31 (Thu)

ヒガシ東京の「砦」から写真の面白さを発信!―RPS @墨田区東向島

プロの写真家の方と話していると、その行動力に驚かされることがしばしばあります。興味を持った対象について、彼らは深く深く追求しようとする。時には(どんな僻地であろうと!)現地におもむいて、撮影の対象である人びとと生活を共にする。たとえ名前を知らない写真家でも、被写体へのまなざしや説得力を感じる作品には心を打たれます。

そんな写真を撮ることができる写真家たちを発掘し、写真の価値を高めようと活動するギャラリーが、墨田区東向島にありました。

曳舟駅から徒歩約7分、目指すは三角形の建物

東武スカイツリーライン・曳舟駅から徒歩約7分、住宅街の路地の間を抜けていくと、科学館のような外観の「ユートリヤ すみだ生涯学習センター」が見えてきます。ユートリヤを越えた先にある三角形の建物が、写真ギャラリー「Reminders Photography Stronghold」(以下、RPS)です。

アラーキーから新進の写真家の作品まで200冊以上の蔵書を誇る写真集図書館
アラーキーから新進の写真家の作品まで200冊以上の蔵書を誇る写真集図書館

200冊以上の蔵書を保管する写真図書館、写真ギャラリーに加え、宿泊施設も備えているRPSは、写真プロジェクトの助成や出版など写真に関わるあらゆることを行う拠点となっています。また、ワークショップやイベントを精力的に行っており、国内外の写真家やキュレーターが交流する場所でもあります。

2012年11月3日にオープンしてもうすぐ1周年を迎えるRPS。今回は、写真家でありRPSの所長でもある後藤勝さんにお話を伺いました。

世界で20冊しかないハンドメイドの希少本も!
世界で20冊しかないハンドメイドの希少本も!

RPS所長・後藤勝さんインタビュー

―2012年の春までタイのバンコクにいらしたそうですが。
後藤勝(以下、後藤):そうですね。タイを拠点に、アジアのあらゆる場所で活動していました。僕自身は自分で写真を撮ってプロジェクトを行ったり、(後藤さんの奥様でありキュレーターの)由美さんは写真展を企画したり、プロジェクトのコーディネートを行ったりしていました。

―「リマインダーズプロジェクト」発足の経緯を教えてくだい。
後藤:リマインダーズプロジェクトは、良いプロジェクトを行っている写真家に陽の目が当たらなかったり、埋もれていったりするのをたくさん見てきた経験から、由美さんが始めたプロジェクトです。お金にはならなくても良い写真を撮っている写真家や、社会問題に焦点を当てて活動している写真家のサポートを行い、彼らについて広く伝えるために2000年頃に立ち上げました。

写真家・RPS所長の後藤勝さん。展示作品について説明してくださいました。
写真家・RPS所長の後藤勝さん。展示作品について説明してくださいました。

― 2000年というと、家庭用のコンピューターが普及してきた時期ですね。
後藤:その頃アメリカにいたんですけれども、日本だと何年か遅れているんですよね。アメリカで必要性を感じた時にはまだ日本でEメールが普及していませんでした。資金がなくてもできるという意味で、インターネットは広まるだろうと感じていましたね。

― その後デジカメが普及して、誰もが自分の作品を発信できる時代となりました。良い写真を撮る人が埋もれてしまう可能性があるのではないかと思いますが。
後藤:写真が大量に溢れているため、良い写真家を見つけられないということですよね。ただ、仕事で写真と関わっていると、WEBサイトでアップされた数枚のきれいな写真を見ても、これは違うなという感じがするんですよ。写真をシリーズ化してプロジェクトができるか、写真集が作れるかと考えると、コンセプトや目的がない場合はとても浅いものになってしまうので。

― ギャラリー名の由来を教えてください。
後藤:Remindersはリマインダーズプロジェクトから。Photographyは写真ですね。Strongholdは、戦争があったときに立て篭る要塞のことです。「要塞」と付けたのには色々と意味があります。外国にいた時、日本の写真業界があまり面白くなかったんですね。面白い人も少なかったし、刺激がない。飛びぬけた才能がある人や窮屈に感じる人は国外に出て行ってしまうんです。
海外の写真を見てきた僕らは、この土地に住み着いて国内外の良い写真を発信していこうと戦闘態勢をとっているゲリラです。マイナーで良いから、誰も見たことがないようなすごい写真家の写真をここで展示したり、日本で認められていない写真家を見つけてここから広めていきたいというのがあるんですよね。
写真をやりたい人にとって何が必要かというと、刺激なんですよ。写真を見てときめくとか涙を流すとか、そういう感動を与えたいというのがギャラリー名の由来ですかね。まあ、簡単にいうと「面白いことをしよう」っていうことなんですけどね。

各写真家の作品はそれぞれニュースペーパーの形にまとめられています。
各写真家の作品はそれぞれニュースペーパーの形にまとめられています。

― HPに掲載されている後藤由美さんの趣意書に、「写真で戦う」という表現がありました。どのような意味が込められているか具体的に教えていただけますか。
後藤:アメリカにいた時、写真の財団から学んだことがあります。アメリカでは地域のコミュニティの中でも人種問題や貧困などあらゆる問題がありますよね。アメリカの写真の財団では、市民の人をギャラリーに呼んで何かの問題について語り合うなど、積極的な姿勢があったんです。写真財団とは全く関係がない問題でも、地域への社会貢献が普通に行われていました。写真を通して何かを学んでほしいという姿勢に僕はとても影響を受けたし、由美さんもそうだと思います。
写真に関わる人が何をしなければならないかというと、社会問題という身近な問題に関わることが第一だと僕はずっと思っているんですよ。反対の人も賛成の人もいるだろうけれど、写真を通して社会問題を語り合うことで何か結論が出たり前進したりすると思っています。そういう姿勢が、「写真で戦う」ということだと思うんですね。

― ギャラリーの場所を東向島に決めたのはなぜですか。
後藤:最初は下北沢などの周辺で探していたんですけれど、あの辺りは高かったんです。それから、空いているスペースが少ない。諦めかけていた頃、東京藝術大学の知り合いの先生に、「そういうことをやるなら、今は浅草から川向こうの方が面白いよ。僕の生徒でも、いまソース工場を改装してアトリエにしている子がいて……」と言われたんです。ちょうどインターネットで不動産屋の情報を見ていたらこの物件があって。解体したり改装したりすればどうにかなるかなと思ったので、決めたんですね。

― 墨東まち見世との関わりもあるんですよね。
後藤: 11月2日にパーティがあって、皆で集まります。キラキラ橘商店街というところでやるんですけれど(笑)。お互いアトリエを経営していたりするのでべったりは付き合えませんが、例えば「プロジェクター貸して」などメーリングリストで回し合ったり、イベントの行き来をしたり。そういう関係性はいいですよね。

― 特に芸術活動をしていない地域の方も参加されるのでしょうか。
後藤:現代美術製作所というギャラリーを運営されている曽我さんという方がいまして。曽我さんが10年くらい前に活動を始めた当初は地域に受け入れて貰うのが大変だったようですが、毎年活動を行ってきた成果もあり、今は関係者も増えたみたいです。僕らが東向島に来た時は、「墨東まち見世の関係です」というと地域の方が親しく接してくださいました。

10月14日(月)に開催された特別企画の様子。 トルコの写真家クルサット・ベイハンとバンコク在住の編集者エリシオ・バルバラよるスライド(写真:塩田亮吾)
10月14日(月)に開催された特別企画の様子。トルコの写真家クルサット・ベイハンとバンコク在住の編集者エリシオ・バルバラよるスライド(写真:塩田亮吾)

― ギャラリーには外国の方も頻繁に訪れるのでしょうか。
後藤:このギャラリーを始める時に、外国のいいものを日本の人に見せる、日本のいいものを外国の人に見せる、という架け橋になるような場所になれば良いと思っていました。先日も、バンコク在住イタリア人の写真編集者エリシオのワークショップを行いましたが、日本で写真家を目指している人が、外国の編集者のワークショップを受けられるというのは貴重だと思うんですよね。ぜひそういう機会を逃さずに皆さんに勉強してもらえたらいいと思います。ここに来る写真家の人も、いつかは外国で自分の作品を発表したいと思っています。できればそういうチャンスをサポートしたいので、それも僕らの活動1つですね。

― 今までどのようなワークショップを行ってこられたのでしょうか。
後藤:今までは、本作りやニュースペーパーを作るもの、写真編集や写真集を読むワークショップを開催してきました。今後は、外国のフェスティバルでしか会えない人を呼んでワークショップを行いたいですね。他で勉強できるようなことではなくて、ここでしかできないようなことができたら良いです。

10月14日(月)に開催された特別企画の様子。 トルコのチーズやパンをつまみながら耳を傾ける参加者たち(写真:塩田亮吾)
10月14日(月)に開催された特別企画の様子。トルコのチーズやパンをつまみながら耳を傾ける参加者たち(写真:塩田亮吾)

― 最後に、今後の展望を教えてください。
後藤:ここにきたらいつでも良い写真が見れるとか、良いギャラリーだと認めてほしいという思いがあって、何を行っているかを発信することに力を入れてきました。これからは、地域の古い写真を集めて展示したり、東北でやっている子どもに写真を教える活動(キッズフォトジャーナル)を東京でやったり、そういうこともできる方向にいきたいなと思います。
また、写真の価値イコール写真家の価値なので、その価値を上げていきたいなと思いますね。名刺に「写真家」と書いてあるだけで社会的には信用がないなど、日本ではまだそういう風潮なんですよね。写真家がもっと胸を張って、自分でプロジェクトを行うために写真を売ることが必要だと思うんです。ワークショップを行うのは、日本の写真家のレベルをあげるためでもあるし、写真家の価値観をあげるためでもありますね。

■個展情報

■the back page revisited(コンピレーションフォトプロジェクト)
期間:10月4日(金)~11月4日(月・祝)
時間:午後1時から7時まで
「3面記事の現場」をテーマに据え、10名(展示は8名)の写真家が各々選んだ事件や事故を調査し、現場を訪れて撮り下ろした写真を展示しています。同じテーマでありながら、写真家によって表現の仕方が全く異なる点が見どころです。後藤さんによれば、「このプロジェクトはスタートしたばかり」とのこと。ここからどんな広がりを見せていくのか楽しみです。

会期は11月4日(月・祝)まで。日によっては、寄稿写真家が在廊していることもありますので、ぜひ作品についてお話を聞いてみてくださいね。
※個展についての詳細は、RPSのHP(http://reminders-project.org/rps/ja/)にてご確認ください。

11月4日(月・祝)まで開催の個展『the back page revisited』
11月4日(月・祝)まで開催の個展『the back page revisited』

■第四回Reminders Photography Stronghold企画展
梁 丞佑写真展「we’re shit but champions』」
俺たちは最悪だ。しかし、最高だ。

期間:11月9日(土)~12月8日(日)
時間:午後1時から7時まで
オープニングイベント/参加費無料/どなたでもご参加頂けます。
11月9日(土)午後5時~8時まで
「やんたろうの秘密をあばく会」からオープンします。
出演:写真家 梁 丞佑
司会:RPSキューレター後藤由美

この記事を書いた人/提供メディア

Yui Sato

東東京のニュースタイルカルチャー研究員。下町の伝統と今風の文化をミックスした作品・商品や、それらを作り出す人々に強く惹かれます。 初めての1人暮らしの地・森下に住み始めて4年。東東京は、深く関わるほど味わい深く、愛着を感じるエリアだと実感する日々を送っています。ふだん書いているのは、ミニシアター系映画の紹介など。夢は、ミニシアターのない東東京で、定期的に映画の上映会を開催すること!

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