2017.05.31 (Wed)
余白のある街、清澄白河で実験を続ける「いろいろな生き方、働き方に出会う場所」
株式会社シゴトヒト代表、リトルトーキョー主宰
ナカムラケンタさん
いろいろな生き方、働き方に出会える場所「リトルトーキョー」が、東京西側の虎ノ門から、東側の清澄白河へやって来て約1年。5階建てのビンテージビルを1棟借りし、約3倍の広さになったリトルトーキョーは、求人サイト「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒトの事務所、ごはん屋さん、バー、イベントスペースと多様に活用され、たくさんの出会いを生み出しています。
今回は、創業のきっかけから、東東京で働くことの魅力まで、シゴトヒト代表のナカムラケンタさんによる率直なお話をお届けします。
アイデアは人との対話の中から生まれる
──まず、現在の事業の概要をお聞かせください。
シゴトヒトという会社で「いろんな生き方、働き方を知ってもらう」ことを軸に「日本仕事百貨」という求人サイトを運営しています。日本仕事百貨をベースに、リトルトーキョーという場の運営、シゴトヒト文庫という出版業も手がけています。
2017年の4月からは、別会社を立ち上げ「popcorn」という、誰でも映画館がつくれるインターネットを使ったサービスを提供しました。
──様々な事業を展開されていますが、どんな風に広がったのでしょうか?
数々のご縁や巡り合わせのおかげもありますが、どの事業も、自分でやってみたくて始めていますね。
最近ようやくリリースできたpopcornは、日本仕事百貨の採用面接の会話がきっかけです。面接では採用不採用は関係なく、この人と何を一緒にしたら一番良いかを考えたくて、「今回の応募はひとまず置いて、あなたが本当にやりたいことって何ですか?」と質問しています。そうしたら、2015年の7月23日に面接に来てくれた方が……、
──えっ、日付まで覚えてるんですか!?
この前、あらためて振り返ってみたから覚えていたんですよ。その方が「映画を紹介する仕事をしたい」と話してくれて。究極の映画紹介の手法ってなんだろう?と2人で考えていたら、映画館だと思ったんです。
ただ設備投資も大変だし、自分で映画館をつくるのはハードルが高い。もう少し調べてみると、劇場ではない場所でも「自主上映」という形で映画を上映できることが分かったんです。ただ、これも費用や手間の面でそう簡単ではない。
面接後、映画に強いクラウドファンディングのプラットフォーム「MotionGallery」を立ち上げた大高(健志さん、株式会社MotionGallery代表)のことが頭に浮かびました。映画を広く見てもらえる機会をつくれないかと彼に相談したことからpopcornが始まりました。すべて権利処理された映画のなかから上映したい作品を簡単に選ぶことができますし、何より初期費用がゼロで、入場者数に応じて手数料が発生する仕組みなので、集客や赤字を心配せず上映できるようになりました。
──「誰でも映画館が開けたら」という思いや、自主上映の仕組みに対する疑問は、面接前からお持ちだったんですか?
全くないです。その場で出てきた問題について考えていたら、誰に相談しようとか、こんな会社とつないだらどうかなど、ふと浮かぶことがあります。日本仕事百貨のインタビューなどで、会社の成り立ちなど深い話まで聞く機会が多かったので、アイデアを形にするための引きだしは増えたかもしれませんね。
▲「popcorn」を使って上映中の様子
いい場所とは、その場で生き生きと働く人がいるところ
──創業時期、きっかけ、苦労した点など、創業当時の詳細をお聞かせください。
2008年に勤めていた不動産会社を辞め、8月に「日本仕事百貨」につながる求人サイトを立ち上げました。「いい場所をつくりたい」という長年の思いを実現するためです。
学生時代は「いい場所」をつくるために建築を学んだのですが、デザインの力だけでは難しいと考え、不動産の会社に入りました。働く時間は充実しながら、どこか違和感を覚えていました。「いい場所」って、どんな場所のことだろうと。
──ナカムラさんが考える「いい場所」にひとつ答えが出たきっかけはありましたか。
もやもやした気持ちを抱えながら働いている頃、あるバーに週6日も通っていたんです。何故こんなに通い詰めているのかと考えたとき、自分が思う「いい場所」の定義が見えた気がしました。その場所に合った人が生き生きと働いている、それがいい場所なんじゃないか。
いい場所を増やすために、人と場所のすれ違いが少なくなるように結びつけたい。そこから、職場をじっくり取材して、応募者自身が働く姿を想像できるような求人サイトをつくろうと考えました。
スタートは1人。取材して記事を書いて、インターネットで発信という一連の流れを、1人で担当しました。当初は実績もなかったので無料で掲載し、何もかも経験がなかったので、周囲は「大変そう」と感じていたかもしれませんが、やりたいことだったから苦労だと思ったことはないです。
そして2013年に、虎ノ門で「リトルトーキョー」をオープンしました。ここでは様々な職業の方が1日バーテンダーとなる「しごとバー」を開いていて、清澄白河でも続けています。いろいろな生き方や働き方に出会えるバー。これも、私たちが考える「いい場所」づくりのための、ひとつの実験だと思います。
▲清澄白河での「しごとバー」。ビルの1階に、木造の小屋でカウンターをつくっています
遊びがないと、新しいものは生み出せない
──東東京で創業する魅力ってどんなところでしょうか?
まずは、都内で考えると賃料が比較的安く、広い物件を借りられること。今の5階建ての物件に関しては、大家さんのご厚意もあるのですが、同じ賃料だと、東京の西側では5分1程度の広さになるでしょうね。大きなスペースがあればいろいろなことを試せて、そこが何かを生み出す場所になれると思うんです。街にもまだ余白というか、遊びの部分があるのもいい。余裕のある空気感は、職場にいても感じます。
──建物の中にいても感じますか!?
感じますよ。虎ノ門の事務所は木造で落ち着いた雰囲気のはずなのに、周囲が完全にビジネス街だったからか、そわそわしました。今はずいぶんと集中できるようになりました(笑)。じっくり仕事ができる、クリエイティブな環境です。5階で計画中のシェアオフィスも、きっといい場所になると思います。
コーヒー屋さんが多いのは、単純にいいですね。今日はどこのお店にしようか考えながら散歩するだけで気分転換になります。お寺さんも多いし、清澄庭園でぼーっとするのもいい。ただ、飲食店がまだまだ少ない。24時以降も開いている店が増えたら、もっと面白い街になると思います。
創業したいなら、創業者のそばにいればいい
──創業にあたって、どんな支援を受け、準備をしましたか?
支援も受けませんでしたし、準備もほとんどしませんでした(笑)。ただ、以前からお世話になっていた方に、オフィスを間借りさせてもらえたことは、本当にありがたかったです。
あとは、会社員時代からイベントやバーに顔を出して、多くの創業者の話を聞いていました。そのたびに勇気が湧いて、自分も何かできると思えたのは、今思うと創業準備だったのかもしれませんね。創業者を支援するためのインキュベーション施設ってありますよね。設備やサポートする環境の充実度も大切ですが、施設に出入りする創業者の思いを、肌で感じる機会を提供できることも大切なことだと思います。衝動は伝染していくので。
──創業の成功確率を高めるポイントってありますか?
失敗を、小さく収めることですね。例えば、1人でできるモデルをつくったり、なるべくお金を借りずに済む方法を考えたり。まずは、週末起業でもいいと思います。小さく始めて失敗に直面したら、またそこで考えて行動することが大事だと思います。
株式会社シゴトヒト
求人サイト「日本仕事百貨」をベースに、清澄白河にあるリトルトーキョーという場を通して、多様な生き方・働き方を紹介している。リトルトーキョーでは、様々な職業の方が1日バーテンダーとなり、話しながら飲める「しごとバー」や、さまざまなイベントを開催。2017年3月にはごはん屋「今日」を曜日限定でオープンするなど、日々実験を重ねている。〒135-0022 東京都江東区三好1-7-14
http://shigoto100.com/