2017.11.01 (Wed)
ビジネスありきじゃない「下町らしいコミュニティ」の力で、墨田区をクリエイティブに盛り上げる
(写真右から)
モアナ企画 プランナー 三田 大介さん
三井広告事務所 コピーライター 三井 千賀子さん
アーティスト/身体表現家 オカザキ 恭和さん
グラフィックデザイナー/イラストレーター 木村 吉見さん
下町情緒あふれる街並み、住宅街と共生する町工場、そして雲にも届きそうな東京スカイツリー。様々な表情を持つ墨田区で、「もっと面白い街にしていこう!」と地域に関わる制作物やイベント運営を様々手掛けている集団がいます。その名も「すみだクリエイターズクラブ」。
通称「クリクラ」に参加するメンバーは、現在約80名。皆さん、「この街が好き」「この街で、面白い人とつながりたい」と集まってきた人ばかりだと言います。
こうしたコミュニティへの参加は、創業期のクリエイター・アーティストにとっても、きっと心強いはず。そこで、グループ誕生のいきさつやどんな活動をしているのか、設立当初から関わる三田大介さん、三井千賀子さん、木村吉見さん、オカザキ恭和さんの4名にお話しを伺ってきました。
地域でゆるくつながる「長屋」感覚
──すみだクリエイターズクラブは2013年秋に発足したと伺っています。まずは誕生の経緯を伺えますか?
三井千賀子さん(以下、三井さん) 私と三田さんは、ずっと東京の東側で生まれ育ち、それぞれに活動していたんですね。ただ、当時の東東京は、「クリエイターがほとんどいない街」という感じでした。一方で、墨田区には両国があったり、向島の花街があったり、暮らしの身近なものを作っている町工場があったり。街として歴史と深さを持っていた。そこに、2012年春の東京スカイツリーがオープンして、「この街、もしかすると大化けするかも……」と。
三田大介さん(以下、三田さん) そうした変化の兆しを感じる中で、「この地域を拠点にするクリエイターが出会い、集まれば、何か面白いことができるんじゃないか」と話し合ったんです。そこで、「クリクラという会を立ち上げます」というチラシを作り、第1回のミーティングを開いたんですよね。
木村吉見さん(以下、木村さん) 僕も同じ地域のクリエイターってまったく面識がなかったんですが、第1回の時で30名くらいかな? 初対面の人ばかり結構な人数が集まって、本当に驚きました。
──ふたを開けてみたら、墨田にはたくさんのクリエイターが活躍していたと。
三井さん 何と言いますか、人数自体は少ないんだと思います。でも、少ないからこそ「つながりたい」「面白いことしたい」と考えるような、同じタイプの人が集まったのかもしれません(笑)。
木村さん 元々が営利目的の団体じゃないし、「ビジネス! 人脈!」みたいな、ギラギラした感じと真逆なのがいいんですよね。みんな独立した個人事業主で、普段の仕事とちょっと離れてゆるくつながり、時には「街のために」と地域と一緒に頑張り、またある時はご近所同士で「一緒に仕事しよう」と連携することもある。
そういう“クリエイター長屋”みたいな感覚が、このグループの一番の特徴かもしれないですね。
ご近所さんと、街のためのクリエイティブを
──「ビジネスありき」とは真逆でありながら、ウェブサイトを拝見すると様々な制作実績がありますよね。これはどのように広がっていったのでしょう?
三田さん 行政などのクライアント目線で見ると、フリーランスクリエイターの“組合”とか“寄り合い”のような感覚に近いのかもしれないですね。ローカルな中でゆる〜い組合のような体をなして、そこに声をかけてもらって受注している感じです。
木村さん 僕と妻のオカザキは西側から引っ越してきたタイプなので、区の仕事なんて本当に縁遠いもので。ひとりでは、絶対受けられなかったと思いますね。
三田さん 行政の仕事で言うと、2013年から継続して手掛けている『すみのわ』というプロジェクトがあります。これは墨田区に20カ所ほどある福祉作業所の工賃アップを目的に、障害者の方々が作るオリジナル商品を企画してほしいと相談をいただいたんですね。
ただ一般のプロダクトデザインとも違い、プロがひとりもいない世界です。そこで、私はプランナーとして、クリクラのメンバーの中から「この人とチームを組めばできるかも」という方に声をかけていったんです。
木村さん 僕は直接関わっていないけど、「この材料で、こういうものを発想するのか!」と、『すみのわ』の商品にはいつも驚かされますよ。商品の材料は、予算の兼ね合いなどから町工場の廃材を再利用しているんですが、だからこそ余計にプロダクトデザイナーの発想力がすごいなと。
三井さん 私はコピーライターとして、『すみのわ』というネーミングを担当しました。クリクラには色んなクリエイターやアーティストがいるから、色んな仕事ができてしまうんですよね。それが面白いですし、ご近所さん同士で何でも制作できてしまうのも、ちょっとうれしい(笑)。
三田さん こまめに連絡取れるとか、ちょっと関係者に会いに行けるとかって、結構大きいですよね。
今やっているプロジェクトも、クリクラに所属している近所のデザイナーさんと進めているんですが、自転車でさっと荷物を運んだりできてやりとりが本当にスムーズ。何より生のコミュニケーションが増えると、仕事が楽しくなりましたね。
村社会でも都会でもない、「下町社会」の魅力
──たしかに、「クリエイターズクラブ」でありながらアーティストの方も参加されていますし、メンバーの幅広さも特徴的ですよね。
オカザキ恭和さん(以下、オカザキさん) 私は北斎漫画を題材にした「北斎ヨガ」やダンスなどのアート活動をしているんですが、一般的にアーティストとクリエイターとでは、少し距離があるじゃないですか。ただ、クリクラには色々な専門領域とリンクしている人が何人もいて。しかも、レイヤーをひょいっと横断しながら、別々の領域の人同士を取り持ってくれる。そのおかげで、ひとりでは難しいようなお仕事も実現できるんですよね。
三井さん オカザキさんの持ち込み企画の、『銭湯バカンス』というイベントもすごい広がりを見せているよね。
オカザキさん 墨田区には、「すみゆめプロジェクト」(正式名:隅田川 森羅万象 墨に夢)という文化芸術プロジェクトがありまして。その一環として、下町の縮図のような銭湯の存在感をもっと発信したいと思い、「クリクラで何かできないかな」と銭湯を舞台にしたイベントの相談を持ち掛けたんです。
あえてアートに限らない分野の専門家たちのアイデアを形にしたら、想像もしないようなすごい企画がいくつも出てきて、それこそアートだなと。(笑)。
三田さん 『銭湯バカンス』は、みんなやりたい放題企画を出しましたからね。そのおかげで、オカザキさんの「北斎ヨガ」をやる日もあれば、「タイとモンゴルのおもてなし」というボーダレスなイベントもできて、銭湯の枠を超えた企画ばかりになりましたね。
──では、最後に東東京で創業する魅力を教えてください。
三井さん 墨田区をはじめ、東京の東側は創業を応援してくれる仕組みがかなりしっかりしていますよね。行政の人も、いい人が多いし距離感が近い。それに『銭湯バカンス』のように「これがやりたい!」というアイデアに対して、柔軟に反応してくれるフットワークの軽さも感じます。
木村さん 東東京に引っ越してくる前は、下町ってどこか閉鎖的な村社会っぽさがあるのかなって思っていたんです。でも、実際は人と人のつながりは大切にしつつ、独立した商売をしている人が多いから風通しがいい。
村社会でも、都会でもない、街社会というか。その人間関係のバランスは、仕事でもプライベートでも、すごく気持ちいいですよ。
すみだクリエイターズクラブ
2013年秋発足。東京では珍しいコミュニティ型のクリエイター集団です。メンバーの対象となるのは、墨田区に住んでいる、または墨田区で働いているクリエイターやアーティストの方。現在所属している面々は、グラフィックデザイナー、ウェブディレクター、コピーライター、映像作家、プロダクトデザイナー、建築家、音楽作家など様々。妄想を実現しているクリエイターの集合体だからできる面白いことや、地域のお店・起業を元気にするような制作・イベントなどの活動をどんどん企んでいきます。※参加希望の方は、毎月1回ミーティングを行っていますので、ウェブサイトからお問い合わせの上、お気軽にご参加ください。