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2014.04.08 (Tue)

廃材の山は宝の山。地域産業と人を繋ぐ「配財プロジェクト」@墨田区本所|ヒガシ東京で働くVol.5

こんにちは、LwP magazine(ループ・マガジン)ライターの新井です。ぼくはよく町工場の職人さんをインタビューしています。インターネットで探して取材をお願いする事が多いので、初めて訪問する町工場ばかりです。

中には住宅街に事務所を構える工場もあります。家内工業として営まれていて、シャッターの閉まった工場(ご自宅)の前に立ち、「本当にここで合ってるかな」とドキドキする事もしばしばです。そのドキドキを感じるのは、一歩中に入ると、大きな機材や火花が散る溶接作業といった、ワクワクする光景が広がっているからでもあります。

こうしてインタビューをするようになるまでは、ぼくは一軒家のシャッターの向こう側に広がる世界を知りませんでした。知ってみて、初めて町が自分と親しくなったように思います。特別な何かをしなくても、ぼく自身が知らなかった町のワクワクはあって、向こう側を知ってさえいればきっと、もっと多くの人にとって町は近づいてくるはず。そう思っていた時に、配財プロジェクトの事を知りました。

配財プロジェクトは、物作り企業の仕事から出る廃材を活用した万華鏡作りワークショップを通じて、地域と人を結ぶ活動をしています。

配財プロジェクトが生まれた理由

一般社団法人配財プロジェクトは、墨田区本所に事務所を構えています。ご自身たちも町の物作り企業や工場を営まれている方々によって運営されてきました。

斉藤靖之さん写真
発起人の一人、斉藤靖之さん。

インタビューには斉藤靖之さんが応じてくれました。斉藤さん自身もゴム製品を扱う会社を経営しています。

発起人の皆さんが仕事をしてきた中で感じた体験が素になり、配財プロジェクトが誕生したという事をまずは話してくれました。

「物作りをしていると、どうしても廃材が出てしまい、もったいないと思っていました。会社を見学に来る方々も、廃材置き場の山を見て、とても興味を持ってくれて『もらえませんか?』と声をかけてくれたりもして、何とかできないかなと思っていたんです」

廃材とは言え、カラフルで、何かに利用できないか。
廃材とは言え、カラフルで、何かに利用できないか。

斉藤さんとお仲間たちがそんな話をしていた同時期に、もう一方の場所でも、物作り経営者たちが似たような事を考えていたそうです。

「ニットの製造をしていた方が、糸を編んだ後に残る糸巻きの芯がもったいないと思っていました。知り合いの知り合いに偶然、世界一の万華鏡作家・依田満、百合子ご夫妻がいて、見せたところ、『万華鏡にできるんじゃない?』と言われたんだそうです」

糸巻きの芯が万華鏡に。
糸巻きの芯が万華鏡に。

こうして、廃材を利用した万華鏡作りのワークショップを開催する事になりました。別々に話していた物作り経営者たちが元々知り合いだったこともあって力を合わせ、「すみだまつり・こどもまつり」に初めて出店したのが4年前の春。この時、「配財プロジェクト」という名前が決まり、活動がスタートしました。

廃材は遊び道具。廃材の山は宝の山。

でも、どうして“廃材”ではなく、“配財”なのでしょう。名前の由来について、斉藤さんに尋ねました。

「今でこそ冷暖房を付けたりできるから、シャッターが閉じていて中で何をしているかわからない工場は多くなりましたよね。でも、ぼくらが小学生の頃は、町の至る所にあった工場は風通しをよくするために開けっぴろげで仕事をしていました。何をしているか自然と目に入りましたし、軒先に置いてあった廃材がぼくたちの遊び道具になっていたんです」

廃材の取れる場所を記した地図
配財プロジェクトが扱う廃材の数々。

同じ原体験を持つ運営メンバーにとって、廃材は遊び道具、廃材の山は宝の山だったと言います。

「この宝物を多くの人に共有できないかという思いを込めて、“配財プロジェクト”と名付けました」

配財プロジェクトは、運営メンバーの原体験に合った活動に進展していきました。廃材を再利用するだけでなく、町の物作り企業と人を繋ぐイベントを開催したそうです。当時の映像が残っているようなので、見せてもらう事にしました。

https://www.youtube.com/watch?v=hdOV9Oea4MI

町工場を見学し、もらってきた廃材を使って万華鏡ワークショップをする。実際にぼくも、ワークショップで作る万華鏡を覗かせてもらいました。廃材と言われなければ分からないほど、綺麗な絵柄を見る事ができました。

万華鏡で見た廃材の写真
万華鏡を通して見える廃材の輝き。

「廃材は物作り企業そのものなんです。だから、万華鏡を通して違った視点で見てもらい、その輝きを伝えたいと思いました」

廃材が繋ぐ「地域と人」

墨田区でスタートした配財プロジェクト。今では他地域でのイベントも手がけているそうです。

「島根県浜田市や大分県佐伯市、富山県高岡市など、各地でイベントを開催しています。街の産業や特徴に合わせて、その都度、企画を考えて地域活性化に繋がるイベントを催すことができています。浜田市のイベントの様子は動画があるのでご覧になりますか?」

https://www.youtube.com/watch?v=9kuCHHm6qjM

浜田市では、世界こども美術館を会場に、投影万華鏡のインスタレーションや、地元の大学生と一緒に子供たち向けの万華鏡ワークショップをしたそうです。産業、行政、学校がコラボレーションして、地域の繋がるキッカケ作りを配財プロジェクトが担いました。

町の廃材が自分たちの宝物だったという記憶が種となり、廃材をもったいないと感じた心が肥やしになって、地域貢献の花が咲く。個人的な気持ちが多くの人を結びつけるキッカケになっている様子に、インタビューをしていて共感しました。

最後に、これから配財プロジェクトはどんな事をしていくか、伺ってみます。

「企業さんとのコラボレーションや学校など教育機関とのコラボレーションをして、配財プロジェクトを継続していける形にしていきたいです。廃材をキーワードに、物作りを子供たちに知ってもらって、物作りの楽しさを感じたり、『将来は、物作り企業で働きたい』と思ってもらえたら嬉しいですね。地域や物作りの発展に、貢献していきたいと思っています」

墨田区八広小学校の生徒たちによる町の物作り企業訪問写真
墨田区八広小学校とのコラボレーション。

既に、墨田区八広小学校で子供向けの万華鏡ワークショップを開催したそうで、その映像も見せてもらいました。墨田区の物作り企業を訪問して、プロの物作りを見て喜ぶ顔や、真剣に万華鏡を作る姿、物作り企業の社長さんからプロの仕事について教わる特別授業の盛り上がり等、子供たちの楽しむ様子を感じる事ができました。

運営メンバーが、それぞれ自社の事業を営んでいるため、配財プロジェクトに多くの時間を割くことができないとおっしゃっていましたが、限られた時間の中で、ちゃんと収益を立てて、継続していく事がこれからの目標だと強く語ってくれた斉藤さん。インタビューにご協力頂き、ありがとうございました!

この記事を書いた人/提供メディア

新井 優佑

インタビュアー/ノンフィクションライター。WEBマガジンやオウンドメディアの運用、寄稿をしています。出版社でスポーツ雑誌編集とモバイルサイト運用を担当したのち、独立しました。2014年は、手仕事からデジタルファブリケーションまで、ものづくりの記事を多く作成しました。1983年東京生まれ。

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