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2014.02.13 (Thu)

墨田区にある写真家7名のシェアアトリエを訪問! ―BACKYARD PROJECT@東駒形

ここ数年、写真家・デザイナー・ライターなど、個人で仕事をする人たちが集まって、アトリエをかまえたという話をよく耳にします。墨田区東駒形にある写真家のアトリエ、「BACKYARD PROJECT」もそのひとつ。

もちろん、写真や文章は、自宅で、1人で制作することも可能。では、あえて空間をシェアすることで得られるメリットとは何でしょうか? 「BACKYARD PROJECT」発起人の1人である、写真家の木村肇さんにお話を伺いました。

元工場をリノベーションして、作品制作やワークショップの開催も可能なスペースが完成!

都営浅草線本所吾妻橋駅から徒歩2分の場所にある「BACKYARD PROJECT」は、7名の写真家の共同アトリエ。2階建ての建物は、1階がワークショップスペース、デジタルスペースと図書スペース、2階が暗室になっています。デジタルスペースに高性能のスキャナやプリンターが設置されていたり、暗室に4×5インチの大判ネガまでプリントできる引き伸ばし機が設置されていたり、写真制作に必要な環境が整っているので、作業がはかどりそう!

ワークショップスペースには100インチのスクリーンがあり、写真家やキュレーターを招いて、トークショーなどのイベントを開催することもできます。メンバーで費用を出し合って、作業に必要な設備を揃えられるのは、シェアアトリエの利点のひとつといえますね。

図書スペースには写真集がたくさん。 1階のソファに座って写真集を広げる時間は最高!
図書スペースには写真集がたくさん。1階のソファに座って写真集を広げる時間は最高!

「BACKYARD PROJECT」の建物は、以前は工場だったそう。
「当初、建物の中は油まみれの状態で、水道もガスも引かれていませんでした。メンバーで1か月かけてリノベーションしましたね。」

また、「BACKYARD PROJECT」という名称は、アトリエの場所を地図で見たときの印象に由来するそうです。
「初めて地図でアトリエの場所を見たとき、周囲の建物に囲まれた“裏庭”のような場所だと感じたんです。裏庭=BACKYARDから発信していこうという意味で、『BACKYARD PROJECT』と名付けました。」

ワークショップで出会った写真家4人の「あったらいいな」から始まったアトリエ作り

「BACKYARD PROJECT」は、木村さんを含む4名のフォトグラファーにより、2012年3月に立ち上げられました。2011年に東京都写真美術館で開催された「ドキュメンタリー・ワークショップ」で、ワークショップの講師だった岡原功祐さんと、受講生だった木村肇さん、横関一浩さん、幸田大地さんの4名が出会い、ワークショップ後も交流を続けていく中で、アトリエ設立の構想が立ち上がったそうです。その後、2012年の「ドキュメンタリー・ワークショップ」受講者4名(會田園さん、石井健さん、前田実津さん、八尋伸さん)が新たにメンバーに加わりました。

現在のメンバーは7名
現在のメンバーは7名

メンバーを選ぶ基準を木村さんに伺ってみると、「性格がいいこと」ときっぱり。
「写真を生業にしていることは前提条件ですが、アトリエをシェアする場合、個人のパーソナリティーが重要です。コミュニケーションがとれて、何でも言い合える人がいいですね」。

現在、メンバーは7名。この7名でアトリエをシェアすることの意義については、
「スタジオ出身の人もいるし、新聞社や出版社と契約をしている人もいます。フォトグラファーとしての出自も撮影の対象も異なる7人なので、7通りの考え方や視点があり、面白いですね。また、メディア各社から与えられた仕事だけでなく、それぞれ自分の作品を精力的に撮っている点も魅力です。」と仰っていました。

膨大な数の写真を自分でキュレーションすると、どうしても個人的な感情(例えば、撮影するためにどれだけ時間がかかったかなど)が入ってしまうということを、以前、写真家の方から聞いたことがあります。そんな時、客観的な目で意見を述べてくれる仲間がいれば、自身の編集力を磨くことにも繋がるのではないでしょうか。

アトリエの一角には、こんなオシャレなスペースも
アトリエの一角には、こんなオシャレなスペースも。

「いい写真」とは、人の心をザワッとさせる写真のこと

「BACKYARD PROJECT」の公式サイトには、次の3つの「ミッション」が掲げられています。
・質の高い写真作品を生み出すためのより良い環境づくりを目指します。
・写真の国境をなくしていきます。
・より質の高い写真表現を追求していきます。

では、質の高い写真とはどのような写真でしょうか。
「海外のワークショップに参加した時に、友だちに『いい写真って?』と尋ねてみたことがあります。友だちからは、『strangeの要素が入っているもの』という答えが返ってきました。今の時代、性能のいいカメラを使えば、きれいなものをきれいに撮ることは難しくありません。でも、『この写真にはなにかある』と思わせるものは、人の目をひき、写真に写っている状況を見てもらうきっかけになります。」

メンバーの写真も、もちろん置いてあります。写真右上が、木村さんの写真集『谺(こだま)』
メンバーの写真も、もちろん置いてあります。
写真右上が、木村さんの写真集『谺(こだま)』

木村さんが写真を始めるきっかけになった写真集も、まさに「strangeの要素が入っている」ものだったそうです。
「大学生の時、アメリカの写真家 リチャード・アヴェドンの『In the American West』という写真集を見て衝撃を受けました。郊外の労働者やマイノリティの人びとを撮影した写真集なのですが、(ファッションでもアートでもない)このような被写体を、細部までくっきり写る高精細なカメラを使って撮影していることが、僕にとっては“strange”だったんです。」

写真左が、リチャード・アヴェドンの『In the American West』
写真左が、リチャード・アヴェドンの『In the American West』

最後に、「BACKYARD PROJECT」の今後の予定を伺ってみました。
「写真学校では、写真の撮り方は教えてもらえますが、その先のことは教えてもらえません。写真の売り込みの方法や、作品集(ダミー本)の作り方など、写真を生業にする方法を教える場所になっていけばいいなと思います。また、BACKYARD PROJECTのメンバーには、海外を拠点にしている写真家もいますので、世界で仕事をする方法をアドバイスすることもできると思います。」

この記事を書いた人/提供メディア

Yui Sato

東東京のニュースタイルカルチャー研究員。下町の伝統と今風の文化をミックスした作品・商品や、それらを作り出す人々に強く惹かれます。 初めての1人暮らしの地・森下に住み始めて4年。東東京は、深く関わるほど味わい深く、愛着を感じるエリアだと実感する日々を送っています。ふだん書いているのは、ミニシアター系映画の紹介など。夢は、ミニシアターのない東東京で、定期的に映画の上映会を開催すること!

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