2015.08.19 (Wed)
仏教の新しい伝えかた。『暗闇ごはん』代表・青江覚峰さん<ぶっとび仏教新潮流Vol.2 前編>
お盆の時期を迎えた今回は、ユニークなお寺やお坊さんに注目!かつてはコミュニティの中心として存在していた寺院。仏教離れが進む中、仏の教えを伝えるためにいままでの常識を打ち破った活動を展開しています。
Vol.2でご登場いただくのは、浅草にある浄土真宗東本願寺派・湯島山緑泉寺住職、青江覚峰(あおえ・かくほう)さん。青江さんはアメリカでMBAを取り仲間と起業した後、日本に戻り料理を通して仏の教えを伝える“料理僧”になるという、異色の経歴の持ち主です。青江さんの現在の取り組みや背景にある想いを伺いました。
青江さん 僕の役割は、「入り口を開くこと」だと考えています。いままで仏教に関心が無かった人に、お寺や仏教に興味を持ってもらうこと。そのため、仏教とは関係のない雑誌で精進料理をアレンジした料理のレシピを紹介する連載をしたり、漫画の監修をしたりしています。その活動の代表的なものとして、『暗闇ごはん』があります。
——『暗闇ごはん』はどんなイベントなのでしょうか。
青江さん 薄暗闇の中、アイマスクをして食事をとっていただくイベントです。お出しする料理名は一切お伝えしません。視覚情報がない中で、0からその料理の味、食感、匂いをご自身で発見していただきます。
私たちは忙しい毎日の中で、つい時間を気にしながら食事をとりがちです。新聞を読みながら、テレビを見ながらの“ながら食べ”は行儀が悪いと言われていますね。でも、実は一番してしまいがちなのが、時間を気にしながら食べること。目に見えないので、周りの人も本人も気づきにくいんですね。「いただきます」「ごちそうさまでした」と食べ物に感謝することが大事だと頭ではわかっていても、食べている瞬間にほかのことを考えていたら感謝の気持ちなんて湧いてこないでしょう。
仏教の根源は“目の前のものに意識を向けること”です。『暗闇ごはん』では、“食べることに意識を向ける”という体験をすることになります。食事は毎日3回取るものなので、日常の中で「あのときこんなことを考えたな」と、“戻ってくる”ことができるのでは、と考えています。
——「特別な体験をした」で終わりではなく、そこで感じたことを日常に接続していく。食事という毎日行うことだからできることですね。なぜこうした取り組みを始めようと思ったのですか?
青江さん アメリカで仕事をしていたとき、めちゃくちゃハードな生活を送っていたんです。机の引き出しにシリアルを入れて、片手でつまみながらパソコンに向かって作業をして、という。当時の僕にはこれがとてもストレスでした。何がストレスかって、引き出しが右側だったんですよ。そうすると、食べている間は右手が使えなくて効率が悪いでしょう。「左に引き出しがついている机にすればよかった」と、本気で後悔していました(笑)
いまでは笑い話ですが、当時は真剣だったんです。日本に戻ってそういう暮らしに違和感を持ったことが根源にあり、食と向き合う活動を始めました。
——青江さんにもそういう時代があったとは意外です。一方で、食以外の活動もされていますよね。たとえば仏教ウェブマガジンの『彼岸寺』立ち上げにも関わっていらっしゃると思いますが、これを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
青江さん 仏教学院に通っていたとき、同期生の松本紹圭と、「日本の仏教はこれからどうしたらいいだろう」と日夜話していたんです。その中で「気軽にアクセスできる仏教メディアをつくろう」と盛り上がって、ブログを始めました。
最初はみんなで好きなことを好き勝手に書くだけのブログでしたが、関わってくれる人が増えてきて、いまの形になりました。
——寺社フェス『向源』でも副代表をされていますね。
青江さん 『向源』は、2011年9月に仏教と音楽を軸としたイベントとして始まりました。発起人は天台宗常行寺の副住職・友光雅臣です。「東日本大震災で人々が不安を抱えている中、お寺にできることは何だろう」「少しだけ立ち止まって、源に向き合うような時間をつくれないか」という想いから企画したといいます。僕は翌年声をかけられ、宗派を超えて参加しました。3年目には神社も参加しています。
——『向源』は東京オリンピックをひとつのゴールとして定めていますが、それはなぜですか?
青江さん 2020年のオリンピック開催都市が2013年秋に決定したとき、各国の招致ムービーが流れたんです。イスタンブールはモスクを、マドリッドは教会を映す中、日本は雷門や明治神宮や皇居ではなく、高層ビルや秋葉原を映していました。確かにそれらも日本のシンボルですが、これまで脈々と築いてきた文化を経て生まれたものです。そうした根幹にあるものを知ってほしいと思いました。
2020年までに『向源』をより大きなプロジェクトに育て、さまざまな寺社で日本の伝統文化や歴史・精神を体験できるようにしたいと考えています。
——青江さんは、ご自身で企画したものだけでなく、人からお誘いを受けたものも真剣に取り組むのですね。
青江さん 僕は基本的に、「誘われたら全部受ける」スタンスです。物事は、縁でしか動いていないと思っているからです。ただ、スケジュール的に難しい等、受けられないものもあります。それは縁がないということなんですね。できるということは縁があるということなので、やりましょう、というわけです。
僕自身も、普段からよく人と人をつないでいます。僕の役割はあくまでも入り口を開くことなので、そこからもっと踏み込んで深く仏教を学びたい人にはほかのお坊さんを紹介するようにしています。
そうやって人をつなげていくと、だんだんとコミュニティができます。それが社会を動かすことになる。人が出会ってお互いの想いやアイデアを語る中で企画が生まれたりしますよね。技術がどんなに進歩しても、社会が動くのはそういった人の出会いと行動の積み重ねだと思うんです。あまり表に出てこないけれど、僕が一番大切にしている活動です。
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これまでの仏教のイメージを覆す活動をたくさん行っている青江さん。後編では、アメリカでMBAまで取った青江さんが仏教に戻ってきた理由や、活動の根幹にある想いを探ります!
8月特集:ぶっとび仏教新潮流
詳細情報
名称 | ■緑泉寺(りょくせんじ) |
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住所 | 〒111-0035 東京都台東区西浅草1-8-5 |
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