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2014.09.12 (Fri)

アノニマ・スタジオ「本の世界を体感できる」@蔵前<ブックイーストVol.2前編>

本にまつわる事柄で先進的な事例の多い東東京。9月の特集『ブック・イースト~日本中を刺激する東東京の「本」文化~』では、本屋さん、出版社、本イベントの仕掛人、本を生活の一部にした人たちなど、4組にお話を伺います。特集を通じ、東東京にある本にまつわる活動が多くあることを知っていただけたらと思います。

Vol.2では蔵前にある出版会社「アノニマ・スタジオ」をご紹介します。本づくりとともに、料理教室など、本の世界を体感できるイベントを続けています。全国にファンを持つアノニマ・スタジオの世界観は、どんな理念・環境から生まれるのでしょうか。

10年前、南青山から蔵前へ

蔵前は昔からモノづくりの街ですが、最近は若いクリエイターや職人を中心に「モノマチ」などのイベントも好評です。「Mirror」や「結わえる」などの人気店にもほど近い「アノニマ・スタジオ」は10年前、蔵前に移ってきて以来、あたたかみのある本を次々に出版してきました。

9月の特集「ブックイースト」Vol.2では、アノニマ・スタジオのスタッフ下屋敷佳子
さん(右/管理担当)、村上妃佐子さん(左/編集担当)のインタビューをお届けします。蔵前という街で出版を始めたきっかけや、本づくりのスタイル、読者との繋がり方などを語っていただきました。前編では南青山から蔵前に移ってきたきっかけからお届けします。

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本の世界を体感できるイベント

— 蔵前で出版会社を始めたきっかけを教えてください。

アノニマ・スタジオは名古屋に本社がある中央出版(株)の一事業部として、2003年に発足しました。出版活動を始めて今年でちょうど10周年になります。最初は港区南青山のマンションの一室でスタートしました。当初から料理教室や著者の料理をそのまま味わうことができる「週末食堂」など、本の世界を体感できるイベントをしていました。パソコンが並んでいるオフィスを週末になるとすべて片付けて、料理教室などイベントを行っていたのですが、回を重ねるごとに参加者も増え、スペース的に難しくなってきました。そこでもう少し広くて、自分たちがものづくりをするのに良い環境はないか探していたところ、この物件に出会ったのです。元々は靴クリーム工場の倉庫だった場所なんです。

— 本づくりとイベントを両輪で進めていたのはなぜでしょうか?

アノニマ・スタジオの料理本は「ごはんとくらし」というテーマでつくっています。料理家の方がどんな人なのか、何を考えてレシピを作っているのか、直接会えたり、味わえたりできる場所があることによって、読者と本の距離や理解が深まるのではないか。そういう思いでキッチンスタジオを併設し、イベントは始まったんです。

入り口には刊行された本が本棚にズラリ。1冊1冊が語りかけてくるようです。

入り口には刊行された本が本棚にズラリ。1冊1冊が語りかけてくるようです。

著者が伝えたいことを形に

— レシピ本や料理本は世の中にたくさん出ていますが、アノニマ・スタジオさんならではの他とは違う本づくりってあるのでしょうか?

著者の核になる部分を本にしたいというのが、私たちの本づくりだと思います。テーマが先にあって著者に依頼するというよりは、「この人の本をつくりたい」と思う著者の方に出会って、その人が伝えたいことや特徴を大事にして形にするほうが、長く売れ続ける力を持っていると思います。また料理本の場合、時間やコストがかかるので1年間に2~3冊しかつくれません。ですからそのとき流行っているものを次々本にするというのは、私たちのスタイルではないですね。

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— 機能的な面と情緒的な面、そういうことって本づくりだけじゃなくて、いろんなものに当てはまると思います。たとえば安くて次々新しい商品が並ぶファストファッションを選ぶのか、好きなメーカーやデザイナーの服を選ぶのか、とか。

そうですね。自分自身も料理をする時にクックパッドを利用することもあるので検索機能は便利だと思いますが、著者が暮らしの中で積み重ねて来た知恵や技をシェアできるのが、本の良さかなと思っています。ここの勘どころやツボさえ押さえておけば応用できる、とか。

『引頭佐知さんのだしとり教室』は、だしのとり方と、だしを使ったお料理の本です。この著者と知り合ったとき、「“これが我が家の味噌汁”と言えるものが作れたら、すごく自信になるし心強いだろうな」と感じたのがきっかけです。
それからこちら『SPICE CAFEのスパイス料理』は、押上にある人気店「SPICE CAFE」の伊藤一城シェフによる、お店の味を家庭で再現できるレシピ集です。お料理に必要でスパイスを買っても、それ以降使わないという声はよく聞きますよね。伊藤シェフは毎年何週間かお店を閉めてインドへ行くほど勉強熱心なので、その熱い思いを伝えたいなと思いました。

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左:『引頭佐知さんのだしとり教室』著/引頭佐知 右:『SPICE CAFEのスパイス料理』著/伊藤一城[/caption]

「くらし」はどんなジャンルにでも当てはまる

— 料理以外の最近のおすすめ本はありますか?

「くらし」って、どんなジャンルでも当てはまるので、子どもといる生活だったり、旅のある生活だったり、書籍企画の自由度が高いのがアノニマ・スタジオの楽しいところなんです。たとえば絵本。私たちは児童書の専門ではないので、まず、大人が興味を持って手に取ってくれる絵本からスタートしました。また、本をプレゼントするのって、よほど相手のことを理解していないと難しいですが、絵本はプレゼントに向いているのではないでしょうか。これはフランスの翻訳版の仕掛け絵本で、とても好評です。

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左:『ナマケモノのいる森で』右:『オセアノ号、海へ!』ともにアヌック・ボワロベール&ルイ・リゴー作

「くらし」をテーマに、著者が身近に感じられる本をていねいにつくっているアノニマ・スタジオのインタビュー後半は、ブレのない編集方針と販売方法、そして蔵前という地域との繋がりをご紹介します。お楽しみに。

9月特集【ブックイースト】記事アーカイブ

Vol.0:9月特集を始める前に。本のことなら、東東京をみよう
Vol.1前編:タナカホンヤ「本を通じて人と繋がる」@根津
Vol.1後編:タナカホンヤ「本を通じて人と繋がる」@根津

詳細情報

名称アノニマ・スタジオ
住所東京都台東区蔵前2-14-14 2F
URL

www.anonima-studio.com

その他

この記事を書いた人/提供メディア

Rie Tomita

Rie Tomita 東東京・プロジェクト 和文化研究員。10数年間、夫の仕事で東京以外の土地を転々としたのち生まれ育った浅草に戻ってきたので、東東京の魅力、残念な部分を冷静に見られるようになった。和装をはじめ、和文化関係のイベントを自身で主催、発信している。和装履物店 あさくさ辻屋本店の代表。

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