2015.09.17 (Thu)
手製本の技と心を伝える「製本工房リーブル」@文京区本郷<職人技リペアで思い出の品を末永く Vol.1>

みなさんは大切にしているもの、ありますか? 思い出の詰まったプレゼントや、長く使い込んだ道具など、古くなってもなかなか捨てられないものがあるかと思います。そこで今回は、そうした品々を手仕事でよみがえらせてくれる職人さんと、その技術に迫ります。
1回目のお題は「本」。接着剤がはがれてバラバラになってしまったり、破れてしまったりと傷みがひどかった本が、丁寧な仕事によって再び命を吹き込まれます。
工房を開き製本技術を伝承
東京ドームからほど近い場所にある、製本や本の修繕などを手掛ける「製本工房リーブル」。自分の本を作りたい人や、体裁が崩れてしまった本を修繕したい人が数多く訪れます。
一般の方向けに製本教室も開いており、製本の基礎的な技術からヨーロッパの伝統的な美術工芸製本まで、受講者の希望に合わせて学ぶことができます。工房内では製本するために必要な道具や材料も販売。製本に興味のある方々の聖地となっています。
代表の岡野暢夫さん(冒頭の写真)は、製本工房リーブルを立ち上げて今年で36年目を迎えます。きっかけは1978年の東急ハンズ渋谷店の開業。それまで専門業者の間でしか流通していなかった製本用の材料が、一般向けに小売されるようになりました。製本資材を扱う会社に勤めていた岡野さんは、ハンズへの卸を扱う傍ら、製本技術を広めるために工房を立ち上げたのです。
今回は修繕をテーマにお伺いしたのですが、岡野さんは、「メインはあくまで製本。製本の技術と知識があってこそ、適切な修繕ができる」と話します。
修繕の依頼では聖書や辞書などが多いそうです。特に使い込まれた聖書や辞書は書き込みなども多く、自分だけの代え難い一冊だけに数万円をかけても直したい人がいるそうです。
本の修繕は家のリフォームと同じで、どこまで直していくかで金額が変わってきます。そのため、一概に金額を決められるわけではなく、依頼者の修繕内容の依頼によって、かかる手間も金額も異なります。依頼者との事前の相談が大切になってくるわけです。
傷んだ本がみるみる復活
取材では、傷んだ本を実際に持ち込み、岡野さんに修繕の技術を見せていただきました。この本は、東東京マガジンスタッフの奥さんのお母さんが大切にしていた料理本。使い込んで表紙と中身がバラバラになってしまっていました。
「本の体裁を整えるだけだったら、ボンドで貼り付けるのが手っ取り早くて料金も安い。ただ、きちんと綴じ直せば丈夫で開きやすい本になる」と岡野さん。技を拝見したいこともあり、綴じ直しコースをお願いします。
作業の様子を動画でご覧ください
19折丁、約300ページをおよそ2時間で終了。修繕費は1万円弱でした。「手間がかかることを知っている人は “安い”と言うし、知らない人は“高い”と言う」と岡野さんは笑います。熟達した手仕事の価値を伝える難しさを感じました。
岡野さんは、「ヨーロッパでは『美術工芸としての製本の文化』があるが、日本では手製本の文化が根付いていない」と語ります。「日本では、『修繕』の要望はあっても、愛蔵書とするための『製本』の依頼はほとんどない」(岡野さん)。そのため、ヨーロッパで本格的に製本技術を学んで日本に戻ってきた人でも、製本に携われる仕事が少ないのが現状だそうです。
実際に本を手にとって表紙を開くときのワクワク感、インクのにおいや、紙の手触り──。電子書籍が普及しはじめ、タブレットなどで読書するのがトレンドになりつつある現代社会にあって、岡野さんは電子書籍の役割は認めつつも、電子書籍では味わえない、「物としての本」の重要性を伝えてくれています。紙の本にはまだまだ決して色あせることない魅力が詰まっていることを実感しました。
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詳細情報
名称 | 製本工房リーブル |
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住所 | 東京都文京区本郷1-4-7 協和ビル3F![]() |
URL | |
その他 | 電話番号:03-3814-6069 営業時間: 平日 10時~18時 土曜 10時~13時 定休日: 第2・5土曜、日曜、祝日 |