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2017.03.03 (Fri)

【3/9-12上演】緻密な演出と演者の即興がつくりだす独自の世界──ウータビジョン・カンパニーの新境地「くだんの件」と「観世音」

日々さまざまなイベントが開かれる、台東区入谷の「SOOO dramatic!」。3月9日からは「くだんの件」「観世音(かんぜおん)」という2作品の上演がはじまります。シェアアトリエ「reboot」のメンバー、佐次えりなさんが代表を務める芸術集団「Utervision Company Japan(ウータビジョン・カンパニー・ジャパン)」が手掛けます。今回は、上演される2作品だけでなく、身体表現とパペットを組み合わせる独特の作風で知られるウータビジョン・カンパニーの活動と、パペット(操り人形)の魅力、今後の展望についてもじっくり伺いました。(聞き手:東東京マガジン編集長 今村ひろゆき)

計算と即興が、観衆を異空間に連れ出す

──佐次さんが設立された「Utervision Company Japan」について教えてください。

2011年夏に南フランスで旗揚げした芸術集団です。創作や芸術が生活に浸透し、真に豊かな生活を送ることができる世界を目指し、海外スタッフ含めて8名で活動中です。海外ではフランス、イギリス、タイ、国内では東京以外の都市でも公演を実現してきました。2015年からはAPEX(ASEAN Puppet Exchange、東南アジア諸国連合パペット交流)に参加し、ASEAN諸国のアーティストと創作活動をしています。

──ウータビジョン・カンパニーの特徴は何でしょうか?


最大の特徴は、音楽、美術、身体の動き、構成、光といった、表現に関わる要素すべてに同じ重みを持たせながら、異空間をつくりだすところです。人間の想像力はすごいので、たとえば「同じ場所で座っている」のに、背景などの要素でバランスを崩すと、見る側の意識が変わり、異空間が生まれます。

私たちは、演出したい世界にお客様をお連れするために要素を緻密に計算し、一方でパフォーマーの即興を引き出す「穴あき台本」をつくります。演者はところどころ空白の台本をもとに「どうしたらその世界を見せられるか」を考え、自分と向き合わなくてはなりません。

──緻密な計算による演出、パフォーマーの即興の2つをうまく組み合わされ、お客さんはウータビジョン・カンパニーが作りだす世界観に引き込まれていくということですね。即興という偶然性を引き出す台本づくりもパフォーマンスも、相当な経験と稽古が必要となりそうです。

ウータビジョン・カンパニーを率いる佐次えりなさん(左)と、東東京マガジン編集長の今村ひろゆき

パペットがあらわにする、人間の内面と関係性

──佐次さんの作品では、パペットが表現の主役だったり、演者とパペットが対等の立場だったりしますよね。パペットを表現者の一員として選んだ理由は何でしょうか。

パペットによって、自分を客観的に見る面白さを知ったからかもしれません。

私が俳優として演じているとき、お客様は、私イコール配役と感じていますが、私と役は完全に一体化しているわけではない。お客様が見てくださる表現と、私が見ている表現は違っているんです。ですが、明確に「私ではない物」であるパペットが役を担ってくれると、お客様と同じものが自分にも見えます。

私は、演じることは生きることと同じだと感じているので、私の手で動くパペットを見て、自分がどう生きているのか、自分が何を成し遂げようとしているのかがわかる。それがすごく新鮮でした。パペットを動かすと、役者の考え方や力量がすべて見えてしまうのも、興味深いところです。

パペットが表現者となるステージ

──パペットを動かすのは難しいですか?

まず、自分が何を表現したいのかを決め、表現したい状態から逆算しないと、パペットの動かし方はわかりません。さらに、1つのパペットを動かすために3人やそれ以上の人数で動かすことになるので、パフォーマー同士の呼吸を感じる必要があります。あうんの呼吸が得意と言われている日本人同士でも、最初はけんかになります(笑)。

パペットを動かすと、相手の考え方や思いが伝わってきます。日常的な関係性では気付かなかった相手の内面を、パペットに教えてもらっているような気がします。欧米には、パフォーマーたちの感性を揺り起こすパペットの力に、すでに気付いている人が多くいます。この先は日本でも「目に見えないけど、確かに作用すること」に注目が集まってくると思います。

──佐次さんがこういった作品づくりをはじめたキッカケは何だったのですか?

子どもの頃から映画が大好きで、学生時代は映画監督になりたいと思っていました。映画業界に2、3年いましたが、だんだんと立体物というか、ライブであるものの方がいいなと思うようになって。俳優活動を経て、構成や演出など、全体をつくる作業に移行しました。

私は頭のなかにイメージが映像として見えるのですが、ウータビジョン・カンパニーやその他の活動も、その映像を具現化していくような感じかもしれません。

──では、今回上演する「くだんの件」と「観世音」について教えてください。

「くだんの件」は、内田百閒の小説「件(くだん)」と、劇作家・演出家の天野天街さんによる作品「くだんの件」を原作に書いた作品です。パペットを使わず、身体と言葉の響き、音だけで世界をつくりあげます。今回は、天野さんの作品に横たわる「繰り返しの面白さ」を表現したいと思っています。いつか死ぬことを知りながら、死ぬまで少しずつ違う毎日を繰り返していく、人間特有の面白さを伝えたいです。

「観世音」は2012年3月11日に、東京で初演した作品です。東日本大震災をモチーフに脚本を書きました。等身大のパペット一体を5人で操作していて、美術の美しさも見どころです。

──今回の「観世音」は再演になるんですね。

同じ作品にもう一度向かうのは気が重く、避けていました。ただ、周囲の助言もあり挑戦したところ、前回の積み上げを通しての変容は作品を深めるのだと気が付きました。新たな方向性を生み出せた気がしています。

──ウータビジョン・カンパニーの、今後について教えてください。

私たちの強みは、空間と人間があれば創作ができること。空間に合わせて作品を変容でき、誰でも共感ができる世界をつくって、海外に運びたいです。パペットはあくまで美術。パフォーマーの手、そしてお客様のイマジネーションが動かしてくれるので、毎回、パフォーマーとお客様とで、一緒に創作を育てていけたら良いなと思っています。

海外へ作品を持ち運び、現地の表現者とコラボレーションを手掛ける。観客とともに作品を育て、再構築を続けていく。今回の「くだんの件」と「観世音」の上演が、佐次さんの、そしてウータビジョン・カンパニーが掲げる新たなプロジェクトの第一歩になります。ぜひ、そのはじまりを目撃してください!

『くだんの件』
■内田百閒の「件」と天野天街の「くだんの件」を原作に、からだが牛で顔だけ人間の浅間しい化物「件(くだん)」を巡る物語。待つ人と待たれる人、期待する人と期待される人、繰り返される、繰り返してしまう事柄や光景。大きな輪と小さな輪。散りばめられたイメージがするすると繋がって、さあ、どうぞと差し出される。演劇でもない、ダンスでもない、何と呼ぶべきかわからない、まさに「件」な作品なのです。
●原作:内田百閒・天野天街
●共同台本構成:笠松泰洋・佐次えりな
●演出:佐次えりな
●キャスト:佐次えりな、美木マサオ、太田豊(音楽)
●振付:外山晴菜

『観世音』
■数人のパフォーマーの手によってのみ、自由に生きることが出来る一体の等身大パペットとUtervision 独特の詩的な美しい美術。パペットとパフォーマーの身体は、時空と生死を超え、たくさん思いを紡ぎ出します。
●作・演出:佐次えりな
●キャスト:石井雅代、ともい江梨、中村明日香、松村綾乃、萩原のぞみ 他
●振付:外山晴菜
●美術:茂木真理

【スケジュール】
2017年3月9日(木) 20:00(観世音+イベント予定)  
3月10日(金) 15:00 / 19:30
3月11日(土) 14:00 / 19:00
3月12日(日) 13:00 / 18:00

【会場】
SOOO dramatic!(東京都台東区下谷1-11-15)

【チケット】
前売り:3500円 (3月9日のみ2000円)
当日:4000円
予約・問い合わせ:tane.u.tom@gmail.com 
Utervision Company Japan

この記事を書いた人/提供メディア

岡島 梓

清澄白河在住のフリーライター。「旅する図書館」という、明日が楽しくなる(はずの)移動式サロンを開き、たくさんの方と頭の中身を交換するのが趣味。

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