ホーム > インタビュー > 革靴づくりを検査で応援! 個人でも対応する公的試験機関

2018.05.30 (Wed)

革靴づくりを検査で応援! 個人でも対応する公的試験機関

_dsc1528

東京都立皮革技術センター台東支所
支所長 井口憲一さん(写真左)
課長代理 黒田良彦さん

革製品を中心としたモノづくりは、台東区の発展を支えてきた産業です。中でも浅草一帯は、革靴生産日本一のエリアとして知る人ぞ知る存在。そこで1972年の設立から半世紀近く皮革・履物関連の産業をバックアップし続けてきたのが、「東京都立皮革技術センター台東支所」です。

皮革関連の品質試験や検査ができる設備を持ち、専門機関として様々な検査を実施する同支所。中小企業やクリエイターの依頼に応じて試験を行い、革や履物産業を盛り立てるための研究も手掛けています。

今回は、同支所で支所長を務める井口憲一さんと、技術担当課長代理の黒田良彦さんに、センターの概要や試験の内容についてお話を伺いました。

教育と研究の両輪で産業振興

「皮革産業が根差してきたこの土地で、モノづくりの伝統を守り、活かしていく場として『皮革技術センター台東支所』が誕生しました」と話す井口さん。建物内には同じく都立の「城東職業能力開発センター台東分校」も併設し、教育機関としての分校と、研究機関としての支所の両輪で皮革産業を応援しています。

分校では「製くつ科」として日本で唯一の公共職業訓練を手掛け、革製の紳士靴・婦人靴の企画から、革靴製造における知識と技術・技能までを伝えています。製くつ科の応募倍率は5倍強になる年もあるとのことです。

「観光のイメージが強い台東区の経済を支えてきたのは、実は皮革産業」と言う井口さん

「観光のイメージが強い台東区の経済を支えてきたのは、実は皮革産業」と言う井口さん

分校で学ぶ訓練生の多くは、専門学校や大学を卒業した後に入学しているそうです。「一旦は関係ない企業に就職したものの、やはり靴をつくりたい、革でモノづくりがしたい、という強い想いを抱えて来る。みな真剣です」と、井口さん。

靴づくりは工程が多く、様々な技術がつぎ込まれる労働集約型の製品。人件費の安い国へと製造拠点が移り、国内では地盤沈下が進みます。その中で日本の靴づくりが生き残るには、多くの人を引き付けるようなブランドを生み出し、付加価値を生み出すことが必要となってきます。井口さんは、「分校は感度の高い女性が全生徒の半数ほどを占めていることもあって、ブランド立ち上げへの強い意欲を感じますね」と期待を寄せています。

公的機関としての使命「質の担保」

続いて技術指導を担当する黒田さんに、品質試験について伺いました。

「近年は、革の輸入先も大きく変化しています。今まで扱ったことのない国の素材は、真に国際基準を満たしているのか、どんな特性があるのか分からないことも多く、輸入革の品質を調べてほしいという依頼も多くなっていますね」と黒田さん。調べてみると、品番が同じなのに品質が随分異なったり、申告とは違う動物の革だったりというケースも稀にあるそうで……。

様々な試験に対応し、皮革以外の素材についても研究する黒田さん

様々な試験に対応し、皮革以外の素材についても研究する黒田さん

最も多い試験依頼が、かかとに取り付けたヒールの強度を計ってほしいというもの。ヒールの破損で消費者の怪我につながる危険を未然に防ぐためにも、公的な機関の試験を経て品質を担保したいと考える作り手、売り手は多いそうです。年間1500項目ほどの依頼試験に加え、定型的な試験項目には当てはまらない事例は「技術相談」という形で個別に請けます。こちらは500件から700件ほど対応しています。

ここで、実際の試験の様子を見てみましょう。主要な試験装置は、常に気温20度、湿度65%に保たれている恒温恒湿室にあります。夏場はかなりひんやり、冬場は温かく感じられると笑う黒田さん。

「ヒールの取り付け強度は、こちらの機械で引っ張りながら調べます。どのくらいの力がかかるとヒールが破断するかデータを取り、成績書を依頼者にお届けするまでが仕事です」と黒田さんは説明します。その他、靴や底材の屈曲性を調べたり、摩耗度合いを調べたりと様々なメニューがあります。「機械での計測も大切ですが、やはり目で見て手で触れて感じ取るのが最初。技術者として、経験を重ねてこそ、公的機関として責任ある調査ができます」(黒田さん)

_dsc1464

引っ張りの検査装置。ヒールに変化が生じる時点、破損する時点にかかる力のデータを収集する

引っ張りの検査装置。ヒールに変化が生じる時点、破損する時点にかかる力のデータを収集する

履物の情報を総合発信

動物の革だけでつくられる靴は減少傾向です。同支所では革以外の合成素材についても常に研究し、情報を発信しています。そのひとつがセンターが主催する「ゼミナール」。最新の素材のトレンドなどを把握し、受講者のアンケート結果も参考にしながら、年8回ほどのプログラムを開催します。支所による研究結果への関心は高く、大手靴メーカーの経営者なども参加するほど。革加工の現場見学を取り入れたプログラムは、若手技術者の参加が目立ちます。

「自分で情報検索をして参加される方もいますが、多くは受講生からの口コミや社内研修の一環のようです」(黒田さん)

支所内に設けたギャラリーには、革靴にとどまらない世界の履物の歴史や、世界の靴をとりまくトレンドを学ぶことができます。履物に関する本がずらりと並ぶ書棚も設けられ、一部を除いて貸し出しも対応しているので、履物や革のモノづくりに携わるクリエイターは必見です。

_dsc1542

革靴の製作工程が一目瞭然の展示や、貴重な書籍が並ぶ書棚などは必見

革靴の製作工程が一目瞭然の展示や、貴重な書籍が並ぶ書棚などは必見

最後に、クリエイターが支所に相談する方法について聞きました。

「どのような方法で試験ができるか判断するので、お電話いただくか、直接来所いただけたらと思います。また、毎年10月に開催される『浅草エーラウンド』という、奥浅草エリアを中心とした革靴の生産地の魅力を伝えるイベントに合わせて、私たちも施設を公開しています。その日も技術相談を受け付けてますので、遠慮なくお越しください」(黒田さん)

_dsc1553
東京都立皮革技術センター台東支所
東京都の伝統的地場産業のひとつである皮革・靴履物産業にかかわる中小企業の振興に寄与するために、主に技術力向上を目的に試験・研究・相談指導を手掛ける。
http://www.hikaku.metro.tokyo.jp/shisho/goriyou.html
電話:03-3843-5912
FAX:03-3843-8629
〒111-0033 東京都台東区花川戸1-14-16

(写真:樋口トモユキ)

この記事を書いた人/提供メディア

イッサイガッサイ 東東京モノづくりHUB

Eastside Goodside (イッサイガッサイ) 東東京モノづくりHUBとは「CREATION IN EAST-TOKYO」を合言葉に、モノづくりが盛んな東東京の「ヒト」と「モノ」と「バ」をつなげて創業者をサポートし、東東京をワクワクする地域に変える創業支援ネットワークです。 https://eastside-goodside.tokyo/

週間ランキング

  • mag_wanted
  • 151220_sooo_banner
  • 151220_reboot_banner