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2018.06.13 (Wed)

個人作家の「宝物づくり」を支える同人誌専門の印刷所

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株式会社しまや出版
代表取締役 小早川真樹さん(写真中央)

いまや単なるイベントの枠を超えて、日本のオタク文化を象徴する祭典として定着したコミックマーケット(通称:コミケ)。3日間で約55万人が来場し、3万組を超えるサークルがさまざまな同人誌(アニメや漫画の設定を利用した二次創作)を制作・販売しています。

約40年前のコミケがスタートした当初から、質の高い印刷で個人作家を支え続けるのが足立区にある「しまや出版」。今回は、約10年前に入社、その後3代目として代表に就任以来、きめ細やかなサービスでファンを増やし続ける小早川真樹さんに、その背景や仕事にかける想いについて聞きました。

小早川さんは、今から約10年前に異業種の営業職から未経験の印刷業界へ

小早川さんは、今から約10年前に異業種の営業職から未経験の印刷業界へ

──そもそもなぜ同人誌の印刷を手がけるようになったのでしょうか?

今から50年前に義理の父が創業したときは、街の小さな文房具屋さんという感じでした。小さな印刷機を1台導入したのをきっかけに、近隣の会社の封筒印刷などを細々と請負いはじめたのが印刷事業のはじまりです。

当時の印刷業界はBtoBが主流で大ロット印刷が大半でしたから、約40年前にコミケが始まった頃は、小ロットに対応してくれる当社のような存在は珍しかったんです。そこから「しまやなら印刷してもらえる」と口コミでお客様が広がっていきました。

──今でこそ当たり前となった小ロットの対応から、人気が出始めたわけですね。

そうですね。コミケの世間的な認知度が広がるに連れて大手印刷会社も参入するようになってきて、今では群雄割拠となりました。極端なことをいえば、印刷機があれば誰でも参入できるわけです。

顧客の気持ちに寄り添い、全ページを目視で確認

──では今もなお、しまや出版さんが人気を集め続ける理由はどこにあるとお考えですか?

私は今から約10年前に先代から事業を継承したのですが、印刷業界は未経験だったんです。

だから入稿のこともよく分かりませんでした。競合他社も参画してくる流れのなかで、僕のような素人でも簡単に入稿できる状態にしないとお客様は増えないと直感しました。その気付きから「初めての人“にも”優しい同人誌印刷所」というキャッチコピーを掲げ、初心者でも安心して印刷を依頼できる環境を整えていったんです。

作者から送られてきたデータをチェックし、印刷に対応した形に整えるセクション。奥にはオンデマンドのカラー印刷機が控える

作者から送られてきたデータをチェックし、印刷に対応した形に整えるセクション。奥にはオンデマンドのカラー印刷機が控える

面付け用のソート機や断裁、糊付けなど、多種多様な機能の機械が並ぶ1階の工場スペース。製版から製本までワンストップで行える印刷会社は、東東京にはほとんどないそうです

面付け用のソート機や断裁、糊付けなど、多種多様な機能の機械が並ぶ1階の工場スペース。製版から製本までワンストップで行える印刷会社は、東東京にはほとんどないそうです

──ホームページでは誰にでも分かりやすいように入稿作業が漫画化されていたり、手描きから専門ソフトまでさまざまなデータ形式に対応していたり、きめ細やかに対応されている様子がよく伝わります。

当時、業界の先輩からは「お前はなんでそんなに面倒くさいことやっているんだ!?」と言われたこともありました(笑)。

初めて利用される方でデータが不備なくそろっていることはまずありません。データの作り方からサポートしなければいけないので、とても手間がかかるんです。今でこそ業界的には短納期、低単価、高品質が当たり前になり、初心者向けをうたう他社サービスも増えてきましたが、当時からいかにサービスに付加価値を乗せられるかを考え続けていましたね。

──格安のネットプリントでも質が高くなってきてはいますが、しまやさんの品質へのこだわりを拝見すると、さらに一歩先をいっていますよね。

「一生に一度」というくらいの思いで印刷を依頼される方もいらっしゃいます。だからその思いに応えたいというのが第一です。こだわりを持ったお客様が完成品を手にしたとき、いかに喜んでもらえるかを考え、他の会社さんでは敬遠されがちな高精細300線のフルカラー印刷にも取り組んでいます。

さらに、刷り上がりは全ページをすべて目視で確認。わずかでも元データと違うものがあれば、全部刷り直すということもあります。

長年にわたる信頼の裏にあるのは、確かな品質を支える職人さんの力

長年にわたる信頼の裏にあるのは、確かな品質を支える職人さんの力

──全ページを手作業でチェックするんですか……! 初心者の方へのサポートという点で、その他にはどんな点に気を付けていらっしゃいますか?

オンラインのみで完結する他社サービスも増えてきましたが、入稿を希望されるお客様に対して、必ず電話で折り返して細かく確認しています。ページ数、冊子のサイズ、右綴じ左綴じの方向があっているかなど、すべての項目ついて口頭で確認していきます。初心者の方で不安な方や装丁のサンプルなどを見比べたい人は、来社して相談していただくこともできます。

独自企画でも注目集める

──印刷サービス以外にも、自社独自の企画も手掛けてますよね? 工場で働く人を取り上げた写真集『あだち工場男子』はさまざまなメディアで話題になりました。

『あだち工場男子』は、もともといつか自社のオリジナル商品を創りたいという思いから生まれた企画なんです。モノづくりのカッコよさを写真集として発信しようと考えて、約半年の取材を経て完成しました。

結果的にテレビ19番組、新聞11社に取り上げられました。ある週刊誌では、グラビア5ページを割いて掲載されたのには驚きましたね。この反響には登場した本人以上に、工場の社長さんに喜んでいただいてます。掲載がよい刺激になり、モノづくりへの責任感が大きくなったという声も聞きます。

小早川さんが発案したオリジナルのカードゲーム。「七ならべ」ならぬ「役職ならべ」で、楽しみながらビジネスを学べる。「イラストなども社内で描いてます。社員もオタク気質が多いので(笑)」(小早川さん)

小早川さんが発案したオリジナルのカードゲーム。「七ならべ」ならぬ「役職ならべ」で、楽しみながらビジネスを学べる。「イラストなども社内で描いてます。社員もオタク気質が多いので(笑)」(小早川さん)

──今後は、どのような取り組みを進めていきたいとお考えですか?

現在、本社3FをDIYスペースとして徐々に整備している途中です。テキンと呼ばれる小型の活版印刷機や刺繍用のミシンなどを置いて、自分の手で本を作る楽しみを感じてもらえるサービスを充実させようと考えています。

今では電子書籍などが注目されていますが、カセットテープやレコードが改めて見直されているように、印刷物もレトロな存在として残り続けると思います。本づくりをトータルで楽しんでもらえるようなサービスを、提供し続けていきたいですね。

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株式会社しまや出版
住所:東京都足立区宮城2-10-12
TEL:03-5959-4320
代表者名:小早川 真樹
従業員数:20名(2018年6月現在)
創業:1968年
事業内容:2018年で創業50年を迎えた足立区に本社・工場を構える印刷・製本会社。同人誌専門印刷を掲げ、初心者に優しい対応と高精細な印刷、製版〜製本をワンストップで行える対応力の高さから、多くのリピーターを抱える老舗。
http://www.shimaya.net/

(写真:樋口トモユキ)

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イッサイガッサイ 東東京モノづくりHUB

Eastside Goodside (イッサイガッサイ) 東東京モノづくりHUBとは「CREATION IN EAST-TOKYO」を合言葉に、モノづくりが盛んな東東京の「ヒト」と「モノ」と「バ」をつなげて創業者をサポートし、東東京をワクワクする地域に変える創業支援ネットワークです。 https://eastside-goodside.tokyo/

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