2013.11.28 (Thu)
能、歌舞伎から地域のお祭りまで、老舗「宮本卯之助商店」の最高級の太鼓の音はどうやって作られるのか?
お祭りで、神社で、お寺で、なじみのある和太鼓の”ドッーン”とお腹に響く音。バチを当てた時にあの音を出す部分には何が張られているか知っていますか? - そう、皮です。
今まで浅草の革産業を靴の視点から追ってきましたが、今回は和太鼓と皮という視点から日本文化を担うとても貴重な存在宮本卯之助商店をご紹介します。
太鼓の歴史は縄文時代にさかのぼるそうなので、革靴よりもずーっと前から日本に存在する革製品なのです。
宮本卯之助商店は江戸幕末文久元年(1861年)に太鼓店として創業以来、152年間太鼓・お神輿・祭礼具を製造・販売してきました。日本全国の神社仏閣・祭り・伝統芸能にかかわる人々を支えているところです。
写真左:浅草にある宮本卯之助商店本社の歴史・風格ある店のショーウィンドウ。1893年に浅草に店を構えた。
写真右:店内は美術館のような圧倒される美しい展示。
学校のような作りの職人さんの仕事場
”太鼓が好きでここに就職したんです。”という企画広報の郡山梢さんに連れられて、太鼓職人さんの仕事場に向かいます。”宮本卯之助商店は学校の教室のように部屋が分かれていて、それぞれの部署には2~6人の職人がいます。”とのこと。
太鼓やお神輿などの製品はお互いに関連性があるという考え方から、職人さんは太鼓・お神輿の両部門を10~15年かけて一通り経験します。
現在宮本卯之助商店には26名(男性24名・女性2名)、18~75歳の職人さんがいらっしゃいます。
最高級の太鼓のための最高級の木・皮・技術へのこだわり
さて、太鼓製作の仕事場にやってきました。
太鼓は胴と皮でできています。
廊下にはいろんな状態の太鼓また太鼓。お客さんから修理に出された年季の入った太鼓や木の幹をくりぬかれた太鼓の胴の原型が並んでいます。
写真左:けやきの木が3重に繰り抜かれた太鼓の原型。木を切ってから3~5年間ねかせて乾燥させた後、やっと太鼓製作が始められます。
写真右:直径1.2m・長さ1.5mくらいの巨大な太鼓の胴の製作中。職人の中村さんが均等な丸みになるように丁寧にチェックしています。
まずは”木の胴を削る“部門に足を踏みいれると、そこに横たわる直径1.2m・長さ1.5mくらいの巨大な太鼓の胴に目を奪われます。 それを職人さんが丁寧に目と手で均等な丸みになっているかを確認しています。
太鼓の表面はカンナで丁寧に調整して木目を寝かせるように仕上げていきます。ヤスリで仕上げると木がささくれて水を吸い、耐久性がよくありません。カンナで仕上げた部分を手で触らせてもらうと、驚くほどツルッツル。
写真左:壁にビッシリと陳列されたカンナとのこぎり。それぞれの職人さんが自分用の道具を持っています。カンナも太鼓の大きさによってちがうものを使い分けます。
写真右:砥の粉(とのこ)・塗料を塗られた太鼓の胴。内側を線状に彫るのは、音の反響をよくするための工夫。
この後、木の乾燥や湿気による変形を防ぐために、泥の”砥の粉(とのこ)”でコーティング、そして和ニスを塗ります。この製法だと木は呼吸し続けることができるのです。
ちなみに、現在では化学塗料のウレタンを使っているところも多いそうですが、宮本卯之助商店では昔ながらの方法にこだわりっています。太鼓とはとても繊細な生きている物なのです。
次に75歳の親方 坂本敏夫さんがいる太鼓の”皮を張る部門”に移ります。
その部屋の壁には太鼓に張るばかりに準備されたいろいろなサイズの皮や装飾品があります。
皮は国産雌牛のもので、茶色く乾燥して、カチカチです。
宮本卯之助商店では化学薬品は使用せず、昔ながらの天然加工によって毛をぬく処理をすることで、皮の繊維を壊さず、音も伸びやかになります。
宮本卯之助商店の太鼓は木も皮も長持ちするように・より良い音が出るように作られているのです。
写真:親方 坂本敏夫さんと林圭太さんの2人がかりで太鼓に皮を乗せて、ロープを引っ掛けて”これでもか!”というくらいに伸ばしていきます。台の下にはジャッキ、かけられたロープにはねじっていくための竹。上から、側面から、皮をたたいては伸ばしていきます。
さて、いよいよ太鼓の胴に皮をのせて伸ばします。
親方ともう一人の職人 林さんの目つきが鋭くなり、寡黙に作業に集中。時々親方が一言指示を出します。
写真のように、皮をたたきながら、ジャッキと竹でロープを張り、”これでもか!”というくらいに伸ばしていきます。 皮が目に見えて伸びていきます。
途中何度か親方が試しに手やバチで皮をたたくと美しい”ドッーン”という音が体中に響きます。 さらに伸ばして、また親方がたたきます。”あっ!音が変わった!”とわかります。
お客さんによってはこの作業に立ち会って、音の調整を一緒にすることもあるのだそう。
何度か太鼓をたたいて、皮をのばしてを繰り返して音の調整ができたら側面に鋲を打っていきます。写真は職人 林圭太さん。
親方が音に満足すると、皮を鋲でとめ、お客さんの注文によって装飾などを施し、太鼓のできあがりです。
一番難しくて大切なのは音!
昭和27年からこの仕事をされている親方に何が一番難しいかときくと、”音”とおっしゃいました。
”500mや1000mはなれた場所でも聞こえる音”はとても責任があるとのこと。
また、お客さんによって音の好みがあるのはもちろんのこと、お祭り・地域・気候や用途によって音は全部違うのだそうです。
例えば、同じ浅草内のお祭りでも町によって音が違うとは驚きです。皆さん、自分の太鼓の音を持っていて、誇りにしているのです。
日本全国、和太鼓の音に出会う機会は年に何回かあるはず。
そのとき職人さん・太鼓の持ち主のこだわりの”音”に耳を澄ませてみてください。