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2013.12.27 (Fri)

【台東スタディーズ2・ファイナル 取材レポートVol.2】谷中の路地裏で出会えるあったかくてユニークな“ありがとう”の形「旅ベーグル」

谷中の「旅ベーグル」の松村純也(まつむらじゅんや)さんが何ともほんわか、あたたかーい”トーク”とおみやげの”ベーグル”をイベント「台東スタディーズ2・ファイナル」参加者にふるまってくれました。

この「台東スタディーズ2・ファイナル」は台東区のこれからを面白くする人たちが集って、繋がろうという趣旨で先日11月30日入谷のシェアアトリエ「reboot(リブート)」で開催され、松村さんは同イベントの1プレゼンターとして出演されました。

松村さんのトークは笑顔と穏やかな話し方でほのぼのと進んでいきます。そのリズムの中、独特なユーモアで笑いも起こすし、また”一本筋が通ってるぞっ”と思わされる信念をきちんと表現されていました。

お店のドアの「旅ベーグル」の文字がのあたたかい蒸気の中。
お店のドアのやさしい「旅ベーグル」の文字があたたかい蒸気の中。冬の日の幸せな眺め。

「旅ベーグル」とは松村さんが奥さんと2人で谷中の路地裏、通称へび道に始めた三角形のスペースの小さな手作りベーグルのお店です。ご本人いわく「お客さんは4人入るのが限界であとは外に行列になる」とのこと。

大胆、かつ人と繋がっているあたたかーい「旅ベーグル」の出発点

このお店を始めたエピソードがとってもユーモアがあって、かつ大胆。
当時谷中に住んでいた松村さんが近所のへび道を歩いているときに、ある一つの小さな物件(現在地)と出会います。これがインスピレーションになって考えたことが、3つ。
1.自分で何ができるか?
2.自分のまち(谷中)に何ができるか?
3.簡単なものは?
そして答えが”ベーグル屋”さんだったそう。参加者から笑いが起きます。

松村さんがおだやかーにトーク中。手にしているのは後述するご本人がが作った牛乳屋”いそさん”の本。 台東スタディーズ2・ファイナルにて主催者の今村さんの横で。 写真:Yui (Lwp-Magazine ライター)
松村さん(右)がおだやかーにトーク中。
手にしているのは後述するご本人が作った牛乳屋”いそさん”の本。
台東スタディーズ2・ファイナルにて主催者の今村さん(左)の横で。
写真:Yui (LwP-Magazineライター)

これを実現すべく、松村さんの起こす行動が参加者に更に大きな笑いを誘います。ベーグルの作り方を何も知らなかった松村さんは、主婦たちのブログでベーグルの作り方の質問をして、答えてくれる人から学び・自分で試すことを始めます。数々の主婦の方たちが親切丁寧に、まるで弟子のようにベーグルの作り方を伝授してくれ、最終的にはおよそ5-60人の主婦とネットの世界で知り合ったとのこと。

松村さんが”ベーグル屋”を思い立って、主婦の方たちを師匠として約1年後、とうとう例の物件に「旅ベーグル」の開店となります。この時、松村さんから5-60人の主婦師匠たちに翌日配達で自作ベーグル2個ずつを送ってお店オープンの報告。それを受けて師匠たちは「私の弟子が谷中でベーグル屋をオープンしたから!」と宣伝してくれたそうです。

お客さんがひっきりなしに入店。場所がないので外から撮影。どのお客さんも幸せそう。
お客さんがひっきりなしに入店。場所がないので外から撮影。どのお客さんも幸せそう。

ちなみに「旅ベーグル」の”旅”は千代田線の中吊り広告にたまたま”旅”という文字が見えたからだとか。

人柄を表すあったかーい「旅ベーグル」訪問

是非実際にお店を見たくなって、またおみやげのベーグルの”こんなの食べたことない!”という感動的な味が忘れられず、訪ねて参りました。

千駄木駅からへび道を見つけて曲がり、へび道らしくクネクネと住宅街を進んで数分。もしかして道をまちがったかなーと思い始めたとき、白い壁の大きめの窓からパンが見えます。ここかな?大きな看板は見当たりません。ドアには「旅ベーグル」の文字。ここだ!

焼きたてのベーグル。「プレイン]「レーズン」「デュカ」そして週替わりのベーグルはお楽しみ。
焼きたてのあったかいベーグル。定番の「プレイン] ・「レーズン」・「デュカ」そして週替わりのベーグルはお楽しみ。

松村さんのトークのように穏やかで控えめなたたずまいの小さなお店です。中に入ると机にベーグルがプレーンから趣向を凝らしたあんこ黒ゴマ・北欧(ライ麦・オレンジピール入り)など5種類並んでます。一つづつ袋に入ってまだあたたかく、蒸気がついています。その机のすぐ後ろのカウンターには松村さんの奥さん、いくみさんがいらっしゃいます。またその後ろには昭和の引き戸で仕切られた松村さんのベーグル工房。松村さんは中で忙しくベーグル製作中の模様。

こんな風にみんな”何?ベーグル?”と言いながら次々と「旅ベーグル」に引き寄せられます。
こんな風にみんな”何?ベーグル?”と言いながら次々と「旅ベーグル」に引き寄せられます。

写真撮影許可をいただき撮り始めようとすると、通りすがりのお客さんが窓から興味深げに覗いては入店してきます。小さなお店なので、外に出て撮影。その15分くらいの間、おそらく15人くらいのお客さん-通りすがり&常連-が出入りしたと思います。
「え?ベーグル?こーゆーの買っちゃうんだよねー」
「今朝、予約してた分取ってくるから」
の会話が聴こえてきます。

朝に電話で予約をした親子のお客さんに接客中の松村さん夫婦。なごやかー。
朝に電話で予約をした親子のお客さんに接客中の松村さん夫婦。なごやかー。

時に松村さんが工房から出てきて、焼きたてベーグルを陳列して笑顔で接客しています。トークでは”自分が作った物にお客さんがお金を払うことによって自分が食べていける”という”ありがとう”の気持ちで今の仕事をしているとおっしゃっていました。「この”ありがとう”と思う気持ちをなくしたら他の商売をする」と言い切った松村さんからは、ゆるぎない信念が伝わってきました。

地に足着いたアートディレクターの顔

実はこの小さなお店の壁に松村さんのもう一つの顔を見ることができます。松村さんは「Tabi Books」という本のシリーズを出版して、「旅ベーグル」の店内の壁・他店舗・オンラインで販売しているのです。

「旅ベーグル」の店内の壁には松村さんの本が販売されています。
「旅ベーグル」の店内の壁には松村さんの本が販売されています。

例えば、「真島町写真帖 いそさん」というタイトルで、近所の牛乳屋の”いそさん”というおじさんが露店を出したり、配達をしている生き生きした表情を撮りおろした写真集。出来た本を”いそさん”にあげると、とっても喜んでくれたそうです。こちらの写真は加藤孝司さんという方に任せて、ご自分がデザインされました。

他の本もご自分のアイディアでありながら、他の方の力(イラストレーター・写真家・ライターなど)を巻き込んで作成されています。松村さん、いい意味で”人を巻き込む”才能をお持ちなのです。「地に足着いたアートディレクターですね」と振ってみると、自信ありげに「そうですね。NPO(Non-Profit Organization 民間非営利団体)アートディレクターっていうところですね」(利益追求でなくこの活動をされているというのも共感します)と返ってきました。

松村さんの作品-ベーグル・本-には”ありがとう”の気持ちと自分のクリエイティビティーへの自信が表現されています。谷中のへび道で、お腹にも心にもとびっきりあったかーい体験をしてみませんか?

この記事を書いた人/提供メディア

Kumiko

独自性研究員。 独自のアイデアで、”考える”機会を与えてくれるものに惹かれます。 また、時間の動きに興味があり、今流行っているものよりも、その先: 時間を先に引っぱっている事や人、または、それ以前: 時間が刻まれた物をいつも探しています。東東京にはこれらの要素がいっぱいで飽きることがありません。

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