2014.01.23 (Thu)
【台東スタディーズ2・ファイナル 取材レポートVol.3】家で旅行で。「トートーニー」のOne-Pieceスリッパで足もとがワクワクうれしい。
ご自分のトーク出番の前にたまたますれ違った「トートーニー」のデザイナー神田沙耶香さんは大変緊張している様子。小声で「お腹いたくなりそう。。。」とも。
これは先日11月30日入谷のシェアアトリエ「reboot(リブート)」で開催された「台東スタディーズ2・ファイナル」終盤でのこと。このイベントは台東区で活躍するいろいろな分野の人を集め横に繋がることを目的に開催されました。当日は6人のトークゲストを迎え、多数の参加者と共に大いに盛り上がりました。
そんな風に緊張していた神田さんでしたが、最後のプレゼンターとしていざ参加者の前でトークを始めたら、すごく丁寧に選ぶ言葉から「周囲に流されない、1本通った芯をお持ちであること」が伝わってきて、参加者も興味深く聞き入っていました。
主催者 今村ひろゆきさん(右側奥)の横でトーク出演中の神田沙耶香さん(右側手前)。
11月30日入谷のシェアアトリエ「reboot(リブート)」でのイベント「台東スタディーズ2・ファイナル」にて。
写真:Yui(LwP Magazineライター)
Only 1 PieceでできたスリッパがのOnly1の商品
屋号「トートーニー」とはつま先からひざまでの「toe to knee」から名付けたそうです。そして神田さんが1年前に台東区の浅草ものづくり工房を拠点に「トートーニー」を始めて、現在までの間に作っているのは牛革のスリッパ(下記写真)1商品のみ。
「トートーニー」の神田さんがデザインした1枚牛革のスリッパは現在4色・8サイズ(17〜29cm)/写真:「トートーニ」Facebook より転載
このスリッパの最大のユニークな点は1枚革で出来ていて、スウェード側を外側にしてクルっと巻き、たった1箇所を縫っただけのシンプルなものであること。スウェード側を外側にすることによって滑り止めになっています。写真でも伝わると思いますが、何も説明されずとも誰でもスリッパとわかるけど、その”作り”を数秒間は見て確認してしまうはず。そして頭の中で”へー”とか”ははーん”とつぶやいてしまいませんか?
写真左:8サイズ(17.0〜29.0cm)ある「トートーニー」のスリッパは家族でその快適さを楽しめます。
写真右:「トートーニー」の革らしさを大切にしたやさしい素押しロゴ。
両写真は http://toe-to-knee.com/ より転載
このスリッパが生まれた背景には、神田さんのこんな考えがありました。モカシンのような平面から立体の可能性に魅力を感じていたことが出発点。市販のスリッパはいつも脱げそうと感じていたこともあり、サイズ展開が1.5cm刻みあるスリッパを作りたいと思ったのだそうです。そして子供から大人まで素足で快適に履くことができ、革を身近に感じられるものだったらと。
出発点の思いを正直に、大切に実現されたのがこのスリッパなのです。ご自分でも実生活で1年間くらい履いている飴色のスリッパは履きしわができて、「毎日パンみたいと思う」と言う様子にはスリッパへの愛情が見えます。
神田さんが実際に毎日使っているスリッパ。ご本人いわく、「毎日パンみたいと思う」
写真:まど枠(「トートーニー」のスリッパを販売する秋田県にあるお店)のブログより転載
http://madowaku-books.blogspot.jp/2013/10/blog-post_3.html
自分で見える製作過程を大切にしたい
また、この1作のスリッパの製作過程と職人さんたちとの堅い信頼関係について、神田さんは”想い”を語ってくれました。
例えば、染革工場さんへ自分で決めた”これ”という色を依頼した際、とても丁寧に染めてくださっていることが出来上がった革を受け取った瞬間に分かり(神田さんの「気持ち悪いと思うかもしれませんが」という前置きで)「その革と一緒に寝たい」と思うくらいにうれしかったそうです。
また、縫製をしてくれる職人さんの「歩くことは前に進むことなので、靴の仕事に携われることは幸せなことだと思っています」ということを何気ない会話の中で聞いたとき、彼女達に依頼して心から良かったと感じたそうです。すべての工程を終え出来上がった商品を授受する際、互いに感謝の気持ちでいっぱいになり涙目になっていたこともあるのだとか。どうやら職人さんも神田さんの”想い”を共有している様子です。
写真左:職人さんがスリッパになる革を水で湿らせガラス板でシワを伸ばしている様子。
写真右:革を乾燥させている様子。
両写真は http://toe-to-knee.com/ より転載。
”浅草周辺の営みのほんの一部ですが、作業風景や工程毎に使用する道具の写真を通して、革という素材を身近に感じていただけたら幸いです。”というコメントで、神田さんはご自分のサイトでスリッパの製作工程を公開しています。
以前、神田さんは靴の製造販売会社・問屋・修理など仕事に携わっていた頃、「やりたい事とその仕事の仕方」を日頃考えていたそうです。現在の仕事の仕方は、設計作業(型紙→サンプル製作→修正)を繰り返し、最終決定したものを職人さんの手に委ねるやり方です。「製作過程での職人さんとの関わりや、商品との距離感に心地よさを感じているので、この流れは大切にしていきたい」とのこと。
「トートーニー」の1作のスリッパの1年間でのめざましい成長
現在、ファストファッションの台頭している時代に皆がどれだけ早く新製品を出せるかにしのぎを削っている中で、神田さんは1年前に台東区の浅草ものづくり工房で「トートーニー」を始めて以来、このスリッパ1商品のみで日本各所で数々の展示会・イベントに参加、店舗販売をしていらっしゃいます。
初めての出展が昨年2月にあり、娘さん用に購入した出展者の方から「スリッパに合わせ服を選んでいます」といううれしい報告を受け、その時いただいた写真は展示会やホームページなどで使用されているそうです。初めての出展にして、”子供から大人まで家族で快適に履けるスリッパにしたい”という神田さんの思いは届きました!
サイズ展開 8サイズ(17.0〜29.0cm間 1.5cm刻み)
写真:ゆかい社中そらぐみ http://toe-to-knee.com/ より転載。
最近では12月に「トートーニー展」-山口県のBelles Fleurs、「Forme」-渋谷ヒカリエ shinQs クラフトビューローで展示販売を行ったばかりです。特にクラフトビューローの「Forme」においては、素材のちがう5組の作り手と暮らしに寄り添うかたちを集めたpop up shopの企画から行ったそうです。
写真のスリッパを見て、これを履いて家で過ごしたい!と思った方も多いのでは?神田さんは皆さんに実際に履いて感じてほしいとおっしゃっていました。私も履かせてもらいましたが、軽くって柔らかくって気持ちよくって、小走りしてしましました。是非、販売店舗・展示会に足を運んで、ご家族で・個人で1枚革スリッパに足をすべらせてみてください。
ちなみに、今年はスリッパの次のステージ、何か新しい商品に挑戦する予定だそうです。「トートーニー」はこれからどんな展開になるのでしょうか?! またLwP magazineでご報告いたします。