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2014.09.15 (Mon)

アノニマ・スタジオ「本の世界を体感できる」@蔵前<ブックイーストVol.2後編>

本にまつわる事柄で先進的な事例の多い東東京。9月の特集『ブック・イースト~日本中を刺激する東東京の「本」文化~』では、本屋さん、出版社、本イベントの仕掛人、本を生活の一部にした人たちなど、4組にお話を伺います。特集を通じ、東東京にある本にまつわる活動が多くあることを知っていただけたらと思います。

Vol.2では蔵前の出版社「アノニマ・スタジオ」のスタッフ下屋敷佳子さん、村上妃佐子さんのインタビューをお届けしています。前編の「アノニマ・スタジオ」ならではの本づくりに続き、後編では「直販」について、そして蔵前とのつながりについてお聞きしました。

スタッフ全員で共有する

前編では、南青山から蔵前に移ってきたきっかけや、本づくりとイベントの両輪で進めてきた理由をお聞きしました。後編は、スタッフ同士の共有のしかたや、読者とのつながり方、地域とのネットワークのお話をお届けします。

— スタッフは何人いらっしゃるのですか?

7人です。アノニマの中ではいつもいろんな本をぐるぐる回覧しているんです。これから出る本の著者の著書やテーマに関連する本や情報などをみんなが共有することで、一冊ごとの世界観や売り方を、自信をもっておすすめできますから。

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— 同じスタッフが編集も営業も兼ねているのですか?

それぞれ担当はありますが、みんないろいろ兼任しています。営業、編集、流通、経理などすべてこのフロアで行っているので、お互いの仕事を自然に理解していきますし、事務所にかかってくるいろんな電話を誰がとるかわからないので、それは必要なことです。

— アノニマ・スタジオの本はここでしかつくれない、ブレてない感じがするのはそういうことなんですね。

そう感じていただけると嬉しいです。本が出来上がると、そこからがスタートで、書店店頭の販促のためのパネルを作ったり、リリースを作ってメディアに紹介したり、ホームページやSNSで内容を伝えたり、どうやって売っていくかも責任があります。最終的に読者の手に届いた後、イベントや送っていただいた読者ハガキなどで反応がリアルにわかるので、まるごと関われるのは幸せだなと思います。

— 携帯やスマホが広まるようになって、本のつくり方は変わりました?

基本的には変わっていないですね。「本」を好きな人たちにとって、より手元に置きたい、何度も読みたいと思っていただける本をつくりたいと思っています。

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本はあるべき所にあるべき

— 2年前からは、イベントを別の場所で行うようになりましたよね?

当初はじめたときよりも、書店や雑貨店でイベントができる場所も増えてきました。あと、マンパワーの点で本づくりにもっと力を注ぎたいと考えたからです。自社の場所は持たずとも、全国各地のご協力いただける別の場所で続けていく方法を選びました。

— ネットで検索して本を探す人が増えてきて、本屋さんも昔とはずいぶん変わってきたと思います。

そうですね。本屋さんに入るときって「この本を買おう」と決めて行くというよりは、「何か今の自分に必要なものがあるんじゃないか」「おもしろいものが見つかるかもしれない」っていう気分のときのほうが多いのではないでしょうか。本屋さんだけではなく、「本はあるべき所にあるべきだ」という理念があり、直販に力を入れています。取次を通して書店に置いてもらうのが通常の方法なのですが、書店以外に雑貨店やカフェ、インテリアショップ、美術館・博物館などにも直接本を卸しています。たとえば料理の本が器と一緒に置いてあったら「この料理はこの器に合いそうだな」とイメージが広がるし、ベビー用品のお店に子育ての本が置いてあっても構わない。本に出会える場所は、必ずしも本屋さんでなくてもいいんじゃないか、という思いで、創立した時から直取引を積極的に働きかけていて、今はトータル1100軒、常時700軒くらい取引があります。

— 本屋さん以外のお店から、うちにも置きたいという問合せもありますか?

はい。ホームページにも載せていますし、本の中に入っている読者の方へのお手紙「アノニマだより」にも記載しています。また、雑貨店などでアノニマ・スタジオの本を見つけて、「うちのお店にも置きたいのですが」というお問合せもいただいています。

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蔵前のネットワーク

— 蔵前はものづくりの町で、昔から職人さんや小さな工房などが多い地域ですが、最近は若いクリエイターが増えていると、前回インタビューした浅草経済新聞の中川さんがおっしゃっていました。アノニマさんは、意識したわけではないでしょうけれど、その先駆けですよね?

蔵前いいですよーと呼びかけたわけではありませんが(笑)、気づけば、ものづくりに関わる方々のお店や事務所が増えてきて、頼もしいですね。このあたりのネットワークがすごく密で、たとえば「どこそこのお店が新規開店します」とか、「誰々さんのお店が〇周年ですよ」とか、すぐに情報が回ってくるんです。

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アノニマ・スタジオのつくる本は、どれをとっても著者の思いがストレートに伝わってくる気がします。その理由が今回のインタビューでとてもクリアになりました。そして直接ではないにしろ、蔵前という土地柄が本づくりになんらかの形で影響があるかもしれないな、と思いました。ていねいにつくって、たいせつに届けた本が読者の手に渡り、その人のくらしを豊かにする。スタート以来、アノニマ・スタジオが一貫してきたスタイルと、それらの本を通して生まれる可能性は、これからの出版にとって明るい未来だと思います。

9月特集【ブックイースト】記事アーカイブ

Vol.0:9月特集を始める前に。本のことなら、東東京をみよう
Vol.1前編:タナカホンヤ「本を通じて人と繋がる」@根津
Vol.1後編:タナカホンヤ「本を通じて人と繋がる」@根津
Vol.2前編:アノニマ・スタジオ「本の世界を体感できる」@蔵前

この記事を書いた人/提供メディア

Rie Tomita

Rie Tomita 東東京・プロジェクト 和文化研究員。10数年間、夫の仕事で東京以外の土地を転々としたのち生まれ育った浅草に戻ってきたので、東東京の魅力、残念な部分を冷静に見られるようになった。和装をはじめ、和文化関係のイベントを自身で主催、発信している。和装履物店 あさくさ辻屋本店の代表。

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