2015.03.04 (Wed)
幸田露伴に、竹久夢二。多くの芸術家に愛された「言問団子」@墨田区向島<花より団子Vol.1>
3月のおすすめVol.1では、在原業平が都に残してきた“想い人”の歌を詠んだ隅田川のほとりで、160年営業を続ける老舗有名店「言問団子」を紹介します。数々の文人や画家たちに愛されてきたその味とは…?
甘さ控えめ、上品な味わい
「名にし負はば いざ言問はむ みやこ鳥 我が想う人は ありやなしやと」
東国へやってきた在原業平が、「みやこ鳥」という鳥の名を聞いて都を思い出し、愛しい人が元気でいるかと訊ねる有名な短歌(「伊勢物語」「古今集」収載)です。古典の時間に習って覚えているという人も多いのではないでしょうか。
この歌が詠まれたのは隅田川だと言われています。そこから名前をとったのが、今回ご紹介する「言問団子」です。創業は江戸末期。植木職人だった外山佐吉氏が、家に来る客人に手づくりの団子を出していたところ、好評を博したため売るようになったのがはじまりです。最初は「植佐の店」という名前でしたが、交流のあった歌人からの助言により「言問団子」に変更しました。
店の周りは昔から梅や桜の名所。名前の風流さに惹かれて花見ついでに立ち寄る人が絶えず、有名になったといいます。
店名と同じ「言問団子」は、小豆餡・白餡・みそ餡の3色で1セット。原材料には、質の良い国産の豆や米粉を使っています。爪楊枝で刺してひとつ頬張ると、ほわっと柔らかな口溶けに驚きました。優しく上品な味が口の中にじんわり広がっていきます。控えめな甘さなので、あんこが得意でない人でも食べられそう。
「お団子の素材はとてもシンプルで、差別化しづらいんです。だから、あんこを炊き上げるとき、濾すときなど、一つひとつの作業を丁寧に行っています」と、6代目の外山和男さん。愛情を込めて丁寧につくられたものを食べると、「大事にされている」気がして、気持ちも満たされますよね。隣の席ではそれを証明するかのように、ご夫婦が「はぁ〜、美味しかったぁ」と満足げに深く息を吐いていました。
ちなみにこのお店、墨田のまちに暮らした著名な文人や芸術家が通っていたことでも知られています。幸田露伴、野口雨情、宇野千代、村岡花子と、そうそうたる顔ぶれ。竹久夢二の日記や版画にも、言問団子が描かれているそう。お店の歴史を辿ってさまざまな文献に目を通した外山さんは博識で、彼らにまつわるエピソードを教えてくれました。
「夢二の代表的な作品である“黒船屋”のモデルはお葉という女性だと言われています。絵からは清楚で上品な印象を受けますが、彼女は夢二のモデルとなる前は、責め絵を得意とする伊藤晴雨のモデル兼恋人でした。同じ女性でも、夢二と晴雨では全く違う女性のように見えていたのでしょうね。それが絵にも現れているところが面白いなぁと思います」
そんな話を聞いていると、著名な文人や画家たちが身近に思えてきます。彼らも、愛しい人の気持ちを“言問い”ながらこのお団子をつまんでいたのかもしれませんね。
かつてこのまちで繰り広げられた恋物語に想いを馳せながらお花見をするのも、悪くありません。
3月おすすめ:花より団子
詳細情報
名称 | 言問団子 |
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住所 | 東京都墨田区向島5-5-22 |
URL | |
その他 |