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2015.12.04 (Fri)

明治の邸宅に50人の熱気、東東京の「文化資源」を発信する第一弾@台東区谷中

今にも雨が降り出しそうな曇り空の下、台東区谷中近くの古い木造家屋に続々と集まる人々。老若男女、50人近くが詰めかけ、会場の座敷は熱気に包まれました。

11月9日、国登録有形文化財建造物である市田邸で開催された「まちの作戦会議@谷中」の“公開作戦会議”の様子です。谷根千(谷中・根津・千駄木)エリアをはじめとする、東京北東部を文化資源の宝庫と位置付ける「東京文化資源区構想」の具体化プログラム第一弾として開催されました。

30年続く谷中のまちづくり

谷中地域には戦災を免れた町並みや路地が残り、多くの人々を引きつけています。いまでこその谷根千人気ですが、このエリアに価値を見出し、その魅力を発信し、建物や景観の保全に尽力してきた地域の人々の活動あってこそ。その流れを振り返る内容でした。

市田邸

会場の市田邸。明治40年に建てられた建物をNPO法人が借り受けて改修、運営しています。

会議ではまず、NPO法人たいとう歴史都市研究会の椎原晶子さんが、30年以上におよぶ谷中まちづくりの経緯を紹介しました。1984年、地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の創刊にはじまり、マンション開発を契機とした建築協定などのルールづくりや、新旧住民の交流を意識したまちづくり団体交流会、市田邸をはじめとする歴史的建物の民間活用など、蓄積してきた経験の数々に圧倒されます。

続いて、明治大学理工学部建築学科教授の小林正美さんによるレクチャー。小林さんが関わってきたプロジェクトの中から、六本木の国際文化会館の保存運動や、下北沢の再開発見直しを求めた活動など、うまくいったケース、いかなかったケースを取り混ぜて解説しました。「多様な主体が関わるこうした活動では、全員合意はあり得ない。7割の合意を目指して、ち密な戦略や実行力が必要」(小林さん)との実践に裏打ちされた言葉に、一同納得でした。

まちの作戦会議@谷中

明治大学の小林正美さんのレクチャー。

最後に、いま谷中で課題となっている、よみせ通りのマンション開発や、ランドマークであるヒマラヤ杉がある区画を守る活動について、それぞれの代表者から報告がありました。

地域の課題を共有

この「まちの作戦会議@谷中」は、東京文化資源区におけるプロジェクトスクールのモデルケースという位置付けです。前もって募集したスクール生は、学生と社会人を合わせて約15人。都市計画や建築を専門にする実務者や学生、自治体の職員、地域で活動する団体、谷中地域の地主など幅広い層が集まりました。

まちの作戦会議@谷中

会議終了後、大正時代に建てられた「カヤバ珈琲」に移動して打ち合わせを続けるスクール生。

同会議の企画・運営メンバーの1人、首都東京大学助教の片桐由希子さんは、「今日はスクール生が作戦会議をしているところを、関心のある方に見に来てもらう場として公開形式にしました。同じような問題意識を持っている方と情報を共有し、何らかのヒントを得ることができれば」と説明します。

今後はスクール生が、「通り沿いの景観」や「大規模敷地」など、5つのテーマに分かれて議論を深めていきます。2016年2月までに計5回の公開作戦会議を開催する予定で、3月にはシンポジウムも企画中とのことです。

第2回の公開作戦会議は12月7日(月)の午後6時から、谷中の最小文化複合施設「HAGISO」で開催されます。詳細は同会議のイベントページでご確認ください。

2020年に1万のプログラム実施目指す

「東京文化資源区」とは、文京区と千代田区、台東区にまたがり、上野公園や東京大学本郷キャンパスを含む半径およそ2kmのエリアを示しています。博物館や美術館が集まり、東京藝術大学が立地する上野近辺、湯島聖堂や神田明神を抱える湯島、出版・古書店が集まる神保町界隈、電気街からサブカルチャーの街に変容した秋葉原など、文化・アート・学術の拠点が密集していることに着目。専門家が中心となって、「東京文化資源会議」を立ち上げて構想をまとめてきました。

東京文化資源区

半径2kmのなかに様々な文化資源が息づく「東京文化資源区」(資料:東京文化資源会議)

同会議は都市計画家の伊藤滋さんを会長として、東京大学大学院情報学環教授の吉見俊哉さんが幹事長を、芸術施設「アーツ千代田 3331」統括ディレクターでアーティストの中村政人さんが副幹事長をそれぞれ務めます。

今年5月に開かれたシンポジウムでは、2020年の開催を目指す「東京ビエンナーレ」について、中村さんから説明がありました。「アート、産業、コミュニティの各分野が連動し、期間中に大小含めた1万のプログラムを開催します」(中村さん)というもの。今回の「まちの作戦会議@谷中」は、その最初の一歩というわけです。

すでにプログラムの第2弾として、対象エリアの千代田区と文京区、台東区を横断する文化資源を“見える化”する「3区文化資源地図ファブ・プロジェクト」が立ち上がっています。江戸・明治以来積み上げてきた東東京の文化資源は、他のどのエリアにも真似できない独自のもの。2020年の東京五輪のタイミングで発信していくことで、世界中のより多くの人々に、その価値を届けることができればと思います。

この記事を書いた人/提供メディア

樋口 トモユキ

愛知県名古屋市で生まれ育ち、東京・東中野現住。大都会東京を横断して、東側と西側を行き来しております。人々が集まり営む都市というものに対する飽くなき好奇心を胸に、日々是精進。

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