2013.11.07 (Thu)
深川の古書店へ、「普通、だけど上等」な一冊を探しに―しまぶっく @清澄白河
都営大江戸線・半蔵門線の清澄白河駅から門前仲町方面に2分ほど歩くと、深川資料館通りの入口が見えてきます。清澄庭園がある江東区三好1丁目から東京都現代美術館がある4丁目へと至る約800mの通りには、みそ味で煮たあさりをごはんの上にかけた江戸名物「深川丼」の暖簾をさげた店が軒を連ねており、歩いていると昔の時代にタイムスリップしたような心地になります。
通り沿いには他にも、器のショップや写真ギャラリー、カフェなど、現代美術館へ向かう道すがら、寄り道をしたくなる場所がたくさん。今回は、そんな資料館通りにある古書店、「しまぶっく」を訪れました。
店の外の1箱書棚には、100円や200円など均一価格の本が並びます。
店名の由来は、沖縄でポピュラーな苗字から
しまぶっくの店主・渡辺さんは、20年以上書店で勤めてきたベテラン書店員。50歳のとき、勤めていた青山ブックセンターを退職し、2010年9月にしまぶっくを開店しました。一見、普通の「町の本屋さん」に見える店内には、渡辺さんが経験を基に選び抜いた本が並んでいて、「これも」「あ、これも」と、つい興味を惹かれて手が伸びてしまいます。
店名の由来は、沖縄出身の奥様の祖母の姓が「島袋」だったことから。沖縄では島袋さんのことを親しみを込めて「しまぶく」さんと呼ぶことが多く、その愛称と本=BOOKを掛け合わせて「しまぶっく」という店名を付けたのだそうです。「初めは沖縄に店を開こうと思っていたんですよ」という渡辺さん。なぜ、深川に店を構えることを決めたのでしょうか。
感度の高い若者から観光客の外国人まで、老若男女、多国籍な人々が行き交う深川エリア
深川にゆかりのない渡辺さんが、資料館通りに書店を開こうと思ったのは、同じく資料館通りにコミュニティ・カフェを構える「深川いっぷく」が開催していた一箱古本市に参加したことがきっかけでした。ちょうど、自分の店をどこに構えようか思案していた最中のことで、資料館通りに古書店がないこと、現代美術館と深川江戸資料館が近くにあり文化的に面白いエリアであることから出店を決めたそうです。
新刊書店で長く勤めてきた渡辺さんが、古書店を開いた理由は、「新刊書店はハードルが高かったから」。取次との付き合いをはじめ、今の時代に個人で新刊書店を開くには様々なリスクが伴います。また、必ずしも客層に合った本ばかりを仕入れられるわけではありません。「書店は品揃えで支持されるかどうかが決まる」と断言する渡辺さん。しまぶっくには、深川エリアの特色に合わせた棚作りの工夫がありました。
お宝のような本を売る古書店ではなく、町の人に支持される古書店が目標
しまぶっくの特徴ともいえる白い棚には、アートや写真、映画、文芸、絵本など、ジャンルごとに仕分けされた本がずらり。棚の配置や中身は、現代美術館で開催される展示の内容によって変わることもあります。また、散歩に来る親子連れや近所のインターナショナルスクールの学生のために、絵本や洋書も揃えています。
しまぶっくは古書店ですが、専門的でマニアックな希少本を探しに来るのではなく、ぶらりと立ち寄るお客様がほとんどです。スタイリッシュすぎる店構えでは入りにくいし、無難な本ばかり置いていてもつまらない(でも、無難な部分も残しておかなければいけない)。このサジ加減が難しいのだとか。「ほぼ毎日、仕入れを行っているので、同じように見えても棚の中身は少しずつ変化しているんですよ。試行錯誤の連続です」。
次の休日は、リアル書店で過ごそう!
渡辺さんに好きな本を伺ってみると、「本を読むのが好きというよりは、本を売るのが好きなんです」という答えが返ってきました。本を仕入れるときに意識しているのは、「普通の上等」を選ぶこと。ふと立ち寄った書店で世界観が広がったり興味が一段階深まったりするような本に出会える喜びを仕掛けるのが、渡辺さんの仕事の醍醐味かもしれません。
2005年〜2008年まで、D&DEPARTMENT PROJECTで刊行されていた『d long life design』
「文化人類学者であるレヴィ・ストロースが提唱した考え方に“プリコラージュ”があります。明確な設計図はないけれど、偶然もたらされたものが組み合わさって当初の目標を超えたものが立ち現われることですね。僕の本の仕入れはまさにそういうやり方だと思います」。
しまぶっくの棚が、今後どのように進化していくのか気になるところ。つづきはWEBで……ではなく、リアル書店に行って実際に確かめてみてくださいね。