2013.12.11 (Wed)
手と手で会話する職人とのものづくり──ヒガシ東京で働くVol.1:デザイン事務所・SOL style(ソル・スタイル)@徒蔵【前編】
世界有数の電気街・秋葉原から昭和通りを境に北に進むと一点、“ものづくり街”としての顔を持つ御徒町・蔵前一帯の「徒蔵(カチクラ)」エリアに入ります。そんな徒蔵エリアに2年前、シェアオフィス「place#001」を構えたデザイン事務所「SOL style(ソル・スタイル)」を今回インタビューしました。 SOL styleは店舗デザインからグラフィックデザインまでを「どんなゴールを目指して作り上げていくか」という部分からクライアントと手を取り合って仕上げていくデザイン事務所です。台東区、墨田区の職人と数々のコラボレーションを積み重ねてもいます。そんなSOL styleのお二人(伊東裕さん、劔持良美さん)に訊いた、「ヒガシ東京で働くこと」について、前編と後編の2回に分けてお届けします。
また来たいと思ってもらえる「広がるデザイン」を届けたい
――まずはSOL styleの活動について教えてください。例えば、SOL styleのホームページに書かれている「広がるデザイン」というコンセプトについてお話しいただけますか?
伊東:「広がるデザイン」というのは、店舗であったりイベントであったりしても、訪れた人がまた来たいと思ってくれたり、facebook等で広めたくなるようなデザインをしていこうということです。
劔持:常に話題にしてもらうことって難しいんですね。イベント会場でも、お客さんがメモを貼ることができるようにしたりして、プラスαの行動ができるようにしておくと記憶に残るし、楽しめると思うんです。楽しめたことって広がるというか。
御徒町・蔵前エリアのものづくりにフォーカスしたイベント「モノマチ」の会場デザインも手がけたSOL style。その際も「広がるデザイン」を意識していたと言います。
劔持:2012年からモノマチの会場デザインをしているのですが、2012年のときはモノマチと書かれた段ボールを用意して、それを各ブースの机としてだったり荷物を入れる容器として使ってもらって、片付けるときもそれに梱包して郵送してもらえるようにしました。そうすれば、配達に頼んで届く先にもモノマチを知ってもらえると思ったんです。段ボールであればコストを押さえることができるし、関わる人たちにとってもモノマチ自体が広がっていくことは良いことですから。
モノマチ2013の会場風景。各ブースの棚に「モノマチ」の文字が主張する
こちらはモノマチ2012の会場風景。モノマチと書かれた段ボールはオレンジが栄えて可愛らしい
友達と何かを始めるように芽吹く、和やかな「職人とのコラボ」
――モノマチのデザイン自体はどういう経緯で引き受けることになりましたか?
伊東:ここに引っ越して来たときに、事務局の方から「面白いイベントがあるよ」って紹介してもらいました。
――こちらに引っ越す前は茅場町で活動されていたんですよね。そちらのときも、墨田区の活性化プロジェクト「SOON」で職人さんとのコラボレーションを数々なさっていますが、職人さんとはどのようにして交流の機会を得ていくものなのでしょうか?
劔持:なんとなく顔見知りになって、話が広がっていくというか……。モノマチもそうですが、ヒガシ東京の場合、人の集まるところにいくと何かが生まれるんです。
台東区、墨田区ともに、イベントごとを通して顔見知りになり、そこからコラボレーションの話が生まれてくるようです。
伊東:例えば、墨田区の職人さんが販売ブースを出しているイベントがあったら、そこに遊びに行って仲良くなっていったりするんです。
劔持:お互いに手に職を持っているから、顔を合わせる機会さえあれば友達と何かをやるくらいの感覚で始まっていくんですよね。それに、相手が何を作っているんだろうっていう興味があったりもしますし。
伊東:普通のプロダクト開発と異なる部分としては、「こんな設計をお願いします」という感じではなくて、「何か楽しそうだから一緒に作りましょう」っていうことから始まるところですかね。
劔持:みんな自分で作れちゃうから。あとは、サンプルを発注するっていう意味ではデザイナーもオーダーする側じゃないですか。オーダーもされるし、する側でもあって、何かを頼んだときに職人さんが面白いって思ってくれて一緒に動き出す、コラボになるっていうことがありますね。
墨田区の江戸切子職人・廣田硝子とコラボレーションした作品。ガラスの万華鏡は景色をきらびやかに変える
手を動かして通じ合う「職人とのコミュニケーション」
――ぼくがSOL styleを知ったのは、Facebookを見ていて友達がシェアしていた万華鏡の写真からだったんですね。あれも、墨田区の廣田硝子とコラボレーションして誕生した作品ですよね。
伊東:元々アクリルで作っていたんですが、それをインテリアライフスタイル展に持って行ったときに廣田硝子の会長さんが見てくれて、「これ良いね。うちでやろうよ」って言ってくれたんです。切子のほうが反射も良いし、重みも出てもっと良い物になるからって。
劔持:すごいラブコールだったよね。
伊東:展示会なのですぐにその場からはいなくなっちゃったんですけど、30分後に今度は社長さんから電話がかかってきて、「会長からすごいものがあるって聞きました。一緒にやりましょう」っていう連絡を頂いて、打ち合わせをすることになったんです。
劔持:カットの数や立体感、透明感、置いたときの傾き方とかを話し合いました。
この万華鏡、撮影時に窓辺から差し込む太陽光に照らされて、鮮やかな色合いを机に映していました。
劔持:職人さんもこのカットは難しい、これなら難しくない、負担はかけたくないけど見た目はすごく良い物にしようって試行錯誤してくれて、その場で一緒にデザインを描いて、切ってみて、ということを繰り返して作りました。
伊東:「こんな削り方が良いんですよ」って言うと、「それは言うのは簡単だけど、見ながら削るのは難しいんだよ」なんて会話をしながら、実際に作業を見せてもらって「これは難しそうだな。無理だな」って思っていたんですね。でも廣田硝子には腕の良い職人さんがいたので、最終的にはとても良い切り方で仕上げることができました。
塩澤製作所の鈴のパッケージングを担当。音色がよく響くパッケージングを施した
廣田硝子以外にもこの上の写真に写っている塩澤製作所とのコラボレーション作品や後編に掲載した加藤製作所とのコラボレーションなど、SOL styleのお二人は本当にいろんな職人さんと一緒にものづくりをしています。それぞれの職人さんとのエピソードをたくさん聞いたのですが、それはまたそれぞれの職人さんを取材できた際に取っておくとして、後編からは「ヒガシ東京がどうしてコラボレーションしていきやすい場所なのか」伺っていきたいと思います。
下町の気っ風とご近所付き合いの紡ぐ先──ヒガシ東京で働くVol.1:デザイン事務所・SOL style(ソル・スタイル)@徒蔵【後編】