ホーム > インタビュー > 浅草の革を世界に!奥浅草で皮革卸業を営む 富田常一さん 浅草の革・靴業界を盛り上げるために奔走中!@台東区今戸<東東京に住むこと Vol.3 前編>

2014.08.22 (Fri)

浅草の革を世界に!奥浅草で皮革卸業を営む 富田常一さん 浅草の革・靴業界を盛り上げるために奔走中!@台東区今戸<東東京に住むこと Vol.3 前編>

人と人のつながりが濃く、様々なテーマ型コミュニティがある東東京。8月の特集「東東京に住むこと」では、そういったコミュニティに様々な形で関わる4組にお話を伺います。特集を通じ東東京で送ることのできる“生活のイメージ”や“根付いて生活するためのヒント”、“日々生まれている活動の様子”をお伝えできたらと思っています。

Vol.3では奥浅草で皮革卸業の会社を経営する富田さんをインタビュー。ものづくりの街・浅草で商売をしつつ、地域を活性化させるイベントの実行委員長もされている富田さん。前編では、浅草の皮革産業が全盛だった時代の革業界・靴業界の様子について伺います。

皮革の卸問屋や靴の工房が立ち並んでいる、浅草の北側のエリア。この街に住む職人の方は、「浅草をまわれば靴が1足できてしまう。世界中を探してもこんなエリアはない」と言います。

靴は、アッパーやソールなどさまざまなパーツからできています。そのため、靴で有名なイタリアでも、1足の靴を作るためには、広大なエリアに点在する靴工房を訪ねなければなりません。浅草という狭いエリアで1足の靴ができてしまうというのは、だから、とても希有なことなのです。

今回は、そんな靴の街・浅草で大正時代から(※)皮革卸売業を続けてきた会社、「富田興業株式会社」の社長・富田常一さんにインタビューを行いました。

富田さんは、2013年よりスタートした浅草のイベント「A-ROUND(エーラウンド)」の発起人であり、今年の10月に開催される「A-ROUND2014」の実行委員長でもあります。今回のインタビューを通じて、「東東京に住み、仕事をすること」のさらに先にあるものが見えてきました。

富田さんは、「富田興業株式会社」の5代目。富田興業の革は、有名婦人靴メーカーや個性派デザイナーの商品にも使われています。富田さんが富田興業に入社した平成5年頃、全国における浅草の革靴は4割ほどのシェアを持っていたそう。前編では、浅草の皮革産業が全盛だった時代の革業界・靴業界の様子について伺いました。

【富田興業ショールームの入り口。季節感あるディスプレイに、革製品がチラリとのぞく。】

【富田興業ショールームの入り口。季節感あるディスプレイに、革製品がチラリとのぞく。】

「遊びの街」から「仕事の場」へ

ーー富田さんは埼玉県越谷市出身とのことですが、浅草にはよく遊びにきていたんですか?

月に1度は、南千住から都電に乗って遊びに来ていました。僕が小さい頃の浅草は、活気のある歓楽街としてのイメージが強かったですね。「日本一、東洋一のアミューズメントエリア」と語る人もいましたよ。当時日本一の高さだった12階建てのビルが、関東大震災で倒れたんですが、高層ビルがいち早く建つような場所でした。

ーー子どもの頃の富田さんにとって、浅草はハレの場所だったんですね。では、小さい頃「遊びの街」であった浅草が、「仕事の場」に変わるまでの経緯をお聞かせください。

僕は大学を卒業したあと、コンピューターメーカーの「日本IBM」に入りました。営業職の研修中に大阪支店への異動の募集があり、手を挙げたんです。大阪に行こうと思ったのは、大阪の厳しい商売の世界を見たいという気持ちが大きかったから。コンピューターの営業なので、企業の社長さんやキーマンの方に会う機会が多く、トップが何を考えて企業を経営しているのかを学びたいと思っていました。

ーー企業のトップの方の経営方針や商売の仕方を学びたいという気持ちの裏側には、将来、ご実家の事業を継いでいこうという思いがあったのでしょうか。

そうですね。やんわりと意識はしていましたが、革業界を知らないので経営のイメージができませんでした。革に囲まれて育ちはしましたが、どのような仕事かは分からない。そんな時、IBMに入って4年目を迎えようかという頃に、祖父(先々代)が亡くなりました。そろそろ父の仕事を手伝い始めようと思い、富田興業に入ったんです。なので、革については会社に入ってから1つずつ学んだんですよ。

【社長室にて、先々代であるお祖父さまと一緒にパチリ】

【社長室にて、先々代であるお祖父さまと一緒にパチリ】

日本の足元を支えるという意識で、みんなが生き生きとしていた

ーー富田興業で働き始めてからの仕事内容について教えてください。

僕が会社に入った頃は、日本全国の約4割の革靴を浅草周辺で作っていました。革製品全般でも、城東5区で4〜5割のシェアを持っていたんですよ。みんながすごく生き生きとしていて、「俺がこの国の足元を支えているんだ」という感じでしたね。扱うのはレディースシューズが多く、「別注の素材を作ってみましょう」などの提案も行いました。靴が店頭に並んだ時のことを想像して、デザイナーと一緒に、「これは流行りすぎてるから特徴を出していこうよ」などと話し合うのは面白かったですね。

ーー革をただ売るだけではなく、デザインをより生かす素材を提案していくんですね。

僕がIBM時代に学んだのは、ソリューションビジネスです。機械そのものを売ることが目的ではく、問題解決のためのプランを提供する。靴にも色々なデザインがあるけれども、使用する革が、その靴の顔になるじゃないですか。「こうすればもっとオシャレになるよ」ということを提案して、問題を解決していく感じですね。

【富田興業のショールーム。さまざまな色や質感の革がずらり!】

【富田興業のショールーム。さまざまな色や質感の革がずらり!】

【来年の春・夏シーズンに向けた展示スペース。これから流行するカラーが一目でわかります。】

【来年の春・夏シーズンに向けた展示スペース。これから流行するカラーが一目でわかります。】

有名メーカーや個性派デザイナーとのチャレンジ

ーー「銀座かねまつ」の靴も、富田興業の革を使用していると伺いましたが。

もちろん「銀座かねまつ」さんの全ての靴ではありませんが、数十年にも渡りお付き合いさせていただいています。15年ほど前に、かねまつさんやツモリチサトさん、ミハラヤスヒロさんなどが新しいチャレンジを始めた頃は面白かったですね。たとえば、革を水につけて絞ったり、擦って焦げ目をつけたり、クラッキング(裂け目加工)させたりしました。オシャレだけれども華美になりすぎない、ふつうの女性でも履ける靴です。

ーーそのようなデザインが出てくる前は、どのような革が求められていたのでしょうか。

革は、最初は明るい色だったけど渋い色に変わっていくなど、経年変化を楽しめる素材ですよね。けれども、当時は百貨店で販売することが多かったので、印刷したように同じように見える革を望まれることが多かったんです。そうなると、色ブレの少ない厚化粧の革を作らざるを得ないんですよ。そんな時代に、ツモリチサトさんなどは、「左右違う靴を履いてみましょう」というくらいの自由な感覚がありました。素材を生かすデザインをされるんですね。まさに革本来の味を売りにしていくというか。そういうチャレンジが、百貨店などでも徐々に受け入れてもらえるようになりました。

【黒や茶の革の人気は衰え知らず。こちらの革は、と〜っても高価だそう(目玉が飛び出るくらいの価格でした!)】

【黒や茶の革の人気は衰え知らず。こちらの革は、と〜っても高価だそう(目玉が飛び出るくらいの価格でした!)】

ーー革新的なチャレンジだったんですね。

当時の主流は、就職活動中の女子大生が履くような、紺や黒のいかにもかっちりとした靴でした。そのような靴に比べると、すごく遊び心のあるチャレンジです。僕らは、「デザインを実現するためにはこういう技があるよ」など提案をしていきます。先ほどもお話ししたソリューションですね。靴はひとつも直線の部分がないので、革を曲げる技術が必要です。曲げたときに表情に変化が出るのが革の面白いところなんですよ。

ーーその頃と比べて、今の革業界、靴業界はいかがですか。

シンプルなデザインで、大量生産できるものは、中国などアジア圏でのシェアが多くなりました。けれども、ユニークなデザインや良質なものは日本に残っています。日本でものづくりをする人たちと一緒になって、何ができるかを考えることが、今後の業界のミッションではないでしょうか。

【こんなビビッドカラーの革も。ものづくりへの意欲が刺激される!】

【こんなビビッドカラーの革も。ものづくりへの意欲が刺激される!】

「デザイナーとの新しいチャレンジが面白かった」と語ってくださった富田さん。しかし、「長いこと浅草に住んできて、今が一番楽しい」とも仰っていました。<後編>では、富田さんが今まさに行おうとしている取り組みについて伺います!

8月特集【東東京に住むこと】記事アーカイブ

はじめに:8月特集「東東京に住むこと」をはじめるにあたって
Vol.1前編:靴・かばんデザイナー曽田耕さん 旧鉄工所を自らの手で改装したアトリエにて精力的に活動中!
Vol.1後編:靴・かばんデザイナー曽田耕さん 旧鉄工所を自らの手で改装したアトリエにて精力的に活動中!
Vol.2前編:ウィンドウデザイナー&コーヒードリッパ― 山内敦史さん 東向島の各種イベントでおいしいコーヒーをふるまい中@墨田区東向島
Vol.2後編:ウィンドウデザイナー&コーヒードリッパ― 山内敦史さん 東向島の各種イベントでおいしいコーヒーをふるまい中@墨田区東向島

詳細情報

名称富田興業株式会社
住所東京都台東区今戸1-3-12
URL

http://www.tomita.co.jp/

その他

この記事を書いた人/提供メディア

Yui Sato

東東京のニュースタイルカルチャー研究員。下町の伝統と今風の文化をミックスした作品・商品や、それらを作り出す人々に強く惹かれます。 初めての1人暮らしの地・森下に住み始めて4年。東東京は、深く関わるほど味わい深く、愛着を感じるエリアだと実感する日々を送っています。ふだん書いているのは、ミニシアター系映画の紹介など。夢は、ミニシアターのない東東京で、定期的に映画の上映会を開催すること!

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