2015.02.09 (Mon)
文字に思いを込める 活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS@台東区<恋におちる vol.1後編>
2月といえば、バレンタイン。それにちなんで2月の東東京マガジンの特集は「恋に落ちる。」をテーマとします。
恋といっても、今回の恋は男女の甘酸っぱい恋ではなくて、ユニークな視点で色々な物や事にのめり込んでいる偏愛(=恋している)を持つ方々を取り上げたいと思っています。
何かをとてつもなく好き・のめり込むということは、情報が氾濫しトレンドがどんどん移り変わる現代において、心のよりどころにもなりえ、自分のアイデンティティを感じる必要な能力のように感じます。
今回の特集では取材させていただく方々の恋がどんな恋なのか、どんなキッカケでその恋がはじまったのか、恋するためのヒントなどを様々な4組に伺っていき、読者に自分らしい生き方のヒントをご提供できればと思っています。
Vol.1 は、活版印刷「FIRST UNIVERSAL PRESS」の渓山さん。お話しを伺いに行ったのですが実際に活版印刷を体験させていただくことに。やってみて気付いた、活版印刷の奥深さ。私、大好きかもしれない!恋に落ちたのは、印刷体験をした私でした。
形のある空白
――渓山さん、よろしくお願いします。
渓山さん:では、まずここから文字を選びます。なんて印刷しましょうか?
私は自分の名前を印刷することにしました。「SUZUKIHIROMI」の11文字を板に並べていきます。一文字一文字探すのに時間がかかります。鉛筆やパソコンで文字を打つことはすぐにできるのに、名前を書くだけでも一苦労。活字が小さいので落とさないようそ~っと扱うのに指が震えました。
s、s、s、次はとぶつぶつスペルを唱えながら文字を並べていきます。
渓山さん:文字を並べたら、この文字たちが動かないように「クワタ」をつめてください。クワタとは鉛のブロックのようなものです。このクワタを文字以外の余白の部分に敷き詰めていきます。文字と文字が動かないように、パズルのようにピッタリと。ここで文字がグラグラしてしまうと印刷がずれてしまいますからね。
――えっ!並べるのは文字だけじゃないんですね。
渓山さん:そう。文字を並べてハンコのようにぺったんと、それだけじゃダメなんですよ。組板をしっかり固定して文字と文章をびっしりにつめる。そのためにクワタを並べるんです。この作業が細かい。でも手を抜いてしまうと印刷がずれちゃうので慎重にしっかりと組みます。グラグラする時は何度もやり直してみて。
壁一面に並んでいたのは、鉛活字だけかと思っていたのですが、よく見るとこのクワタがびっしりと。細いもの、長いもの薄いもの、分厚いもの、たくさんのクワタ。クワタはつまり余白です。印刷されたものからはクワタの存在は消えてしまいます。でも文字でないこの余白、空白を作るクワタがあってこそ文字が印刷されていくのです。
渓山さん:活版印刷は、文字ではない余白を作ることが必要なんです。空白を作る。こうして自分で文字を組んでみないとわかりませんよね。
文字が並び、組板ができました。文字以外の鉛のブロックが前述のクワタです。
最後は、緊張の一瞬です。ガシャン。プレス機を下げた時の手の感触と重み、自分が文字を作り出している感触です。コースターには、SUZUKI HIROMIの文字が。
――おお~できてますね!できてる!いい感じです。おお~!!人生初めての活版印刷。
渓山さん:できましたか?いいですね~ばっちりですね。
――このインクは渓山さんが混ぜるのですか?
渓山さん:そうです。インクはまぜてご要望の色を作ります。色の確認は立ち会っていただくことが多いですね。この色でこんな風になりますがどうでしょうか?と。あれでもない、これでもない、よしこれでいこう!とその場で打ち合わせしながら作っていきます。
――お客さまと一緒に作っていく、ということですね。
渓山さん:そうですね。悲しいことに、紙媒体や紙の印刷は年々減っています。だからこそ、これからは作り手にはとことんこだわってほしいなと。書く人もそうですが、印刷する私たちも一緒になって作っていく。こだわりや思いがつまった、紙や文字や活版印刷が好きな人が作った渾身の1枚や1冊を表現していくことに意味があるんじゃないかなと。そんな風に世の中が向かってほしいです。
―ワークっショップも積極的に実施されていますよね。
渓山さん:まずは活版印刷ってどんなものか知ってもらいたいので。道具が多いのでできることが限られてしまのですが、それでもみなさん来てくれます。活版印刷に興味はあるんだなって思います。鈴木さんどうでしたか?意外と使っている道具はずっしりと重たかったり、活字が小さいなと思ったり、触っていただかないと分からないですよね。実際にやってみると新しい発見があったり初めて出会う感触があって、活版印刷の魅力をそれぞれに見つけてもらえるのかなと思います。
渓山さん:鈴木さん、活版印刷のどこが魅力でしょうか?
――私なりに、見つかった気がします。う~んでもこの言葉にするにはもっと自分の中で整理しなきゃかもしれません。
渓山さん:あはははは。多くの方に活版印刷を知ってもらえるようにワークショップ、続けていきたいと思っています。
恋は落ちるもの。その通りかもしれません。わずか11文字。時間にしたら1時間ちょっとでしが、私は自分の作った活版印刷のコースターを眺めるとニヤニヤしてしまいます。文字を組んだ時のずっしりとした組板の重みや、プレスをガシャンと落とした時の感触。一つ一つの文字にに私の時間が刻まれているような気がします。文字でない余白にさえも。
渓山さんは、活版印刷の魅力を言葉では表すことができていないとおしゃっていましたが、もしかしたら心の中ではいろんな答えがでているのでは?と思いました。活版体験、初めての私にも丁寧にやさしく一つ一つ教えてくださり温かく見守ってくださった渓山さんからは、活版印刷を大切にしている思いが溢れていた気がします。
2月特集:恋におちる
詳細情報
名称 | FIRST UNIVERSAL PLASS |
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住所 | 東京都台東区寿2-7-8 1F |
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